前回幕末からJASRAC設立に至る経緯についての第1回を書きました。

第2回に移る前に、今回はインターミッションです(^ ^)

 

皆さんは様々な音楽を聴くときに、その音楽が無の状態から皆様のお耳に届くまでにどのような作業が行われているか、ご存知でしょうか?

分野にもよりますし、同じ分野でも一律ではございません。

 

が、ごく一般的な歌謡曲(かなり広い意味で)の場合を以下に記してみます。

 

1:メロディーを簡単な伴奏とともに作曲する

2:アレンジャーに依頼して打ち込み作業や場合によっては生楽器のアレンジをほどこす。

3:生楽器の録音が必要な場合はその手配をして、録音する。

4:ラフにミックスができた音源を作詞家に聞いてもらい、詞を載せてもらう。

5:仮歌を録音して本番の歌い手さんにお渡しする。

6:本チャン歌の録音をする。

7:全てのトラックのミックスをする。

8:マスタリングという最終的トータルな音のバランスを整える作業をする。

 

というような流れになるかと思います。

今回の例ではいわゆる「曲先(きょくせん)」という、メロディーを先に作ってからあとで詞をつくる流れで説明しましたが、時には、先に詞があってそれに作曲家があとでメロディーを作る、という場合もあります。あと、上の例ではある程度アレンジされて曲の雰囲気が伝わる状態にしてから作詞をしてもらっていますが、どの段階で作詞をしてもらうかは場合によりますね。

 

ちなみに、芸術歌曲のようなものだと、ほとんどが「詩」が先にあってそれに対して作曲家が音楽をつくるのが普通ですが、近年のポップス等、流行歌の類のものでは「詞」を後にする方が一般的でしょう。

 

ところで、1と2の作業を同じ作家さんが手がける場合と、別な場合があります。

メロディーを作るのが得意な作家さんが必ずしもアレンジも秀逸だとは限らないからです。

 

さて、この1と2を同じ方がなさった場合は特に問題が生じることはないのですが、別な方にアレンジしていただく時には、イントロは作曲家が作ってある?少なくともこんな感じ・・・みたいなのがあるない?同じように、間奏部分は?エンディングは?となることがよくあります。メロディーを作った作家から「・・・ちゃん、アレンジよろしく〜、イントロとか全部任せるからぁ〜」てなこともよくあるわけです。で、アレンジャーって妙に「いい人」が多いんですよ・・・笑

自分が施したアレンジで「メロディーの欠片」位しかなかったものが立派な作品として生まれ変わった姿を見て(聞いて)自己満足に浸るのはもちろん、作曲家(と言えるのかどうかアヤシイ場合でも一応作曲家としてクレジットされる方・・・)さんから絶賛されて最大級のお褒めの言葉をもらうと、天にも昇る気分になるんですよね。

 

さて、ここからが本題です。

通常、このアレンジャーさんにはアレンジ料として幾らかの報酬を支払いますが、ごく稀な場合を除いて、最初にポンと払われた金額で全ての権利を買い取られてしまうことが多いのです。某公共放送の子供番組などの歌ではかなり良心的で、アレンジャーに対して、そのような買取をしちゃうことは少ないそうですが、その実態を制作現場の人間ですら知らないと普通に買取されちゃいます。

ところで、このようなアレンジっていうお仕事、はっきり言って相当な訓練と経験を積んだ、才能豊かな方じゃなければ勤まらないですよね。

 

で、ですよ、イントロとかアレンジャーさんが独自に作っちゃって、伴奏にも極めて独特なフレーズが入っていて・・・という作品を作ったときに、一体これは誰がどんな著作権を有するのか・・・・???

 

これが、今日の本題です。

 

著作権法に素直に従えば(従前の業界慣習は棚に上げて・・・)第27条に規定されている二次的著作物と考えるか、またはメロディーを作った作曲家との共同著作物と考えるのが当然ではないでしょうか?・・・と、実は文化庁著作権課にお電話で問い合わせたことがあるんですよ。お答えは、私が言う通り、で間違いはないとのことでした。

 

さて一方、JASRACの規定で、「公表時編曲」という扱いがあります。

これは、上記のようなことをアレンジャーの先輩方が権利主張されてだいぶ前に設定された規定なのですが、これ、カラオケからの分配だけだし、なんと取り分が全体の中の1/12なんです。

しかも、作曲家作詞家等の承諾があった場合のみ(つまりそのプロジェクトの中での力関係による)です。

 

もし、私が先ほど述べたようにその権利が保護されるべきもの、としたならば、この規定は間違いなくおかしなパワーバランスによって決定されたものと考えなくてはいけません。その当時、相当なご苦労をされて勝ち取った大切な規定ですので、おいそれとそこを弄ることはできないでしょうが、これから先、活動されていく若い作家、アレンジャーの皆さんが持っている保護されるべき権利がちゃんとあるんだ、ということを念頭に置いて将来いつか是正されることを祈りつつ、今は大人しくお仕事されるのをお勧めいたします。

 

ちなみに、オーケストラアレンジまで一人の作曲家が全て行うのが本当のプロでしょうが、分業することで作業効率が上がると言う事実もございますから、アシスタント等の存在も大切です。

 

最後に、ここかなり重要ですが・・・

日本の著作権法は「著作物を作成した労苦に報いる」という考え方は取っていません。よって、どんなに大変な作業でも、そこに著作物性が認められないものを生み出した場合、著作権法による保護は受けられません。が、その作業の中に「思想又は感情を創作的に表現したもの」があれば、保護が受けられるべきなんです。

オーケストレーションが単に作業だとしたら、それは保護されないかもしれませんが、しかしその労務に対しての支払いは相当な金額であるべきですし、その作業に上で述べた、著作物として保護されるべきもの、という部分がある場合は、労務に対する報酬に加えて、著作権法による保護が与えられる、と考えるべきことです。

これは、例えば、劇伴奏系音楽を委嘱された作家さんは委嘱料をもらいつつ、著作権も保護され、放送使用等による印税も受け取れると考える根拠です。