母と近くのスーパーへ買い物に行った。
実家近くのスーパーは、あのペンギンキャラがマスコットの店で、モノが溢れていてとても狭苦しい。
ただ、驚安と打ち出しているだけあって、お客さんもいっぱい来る。
さて、レジに向かおうとカートを押していたら、狭い通路の真ん中で、オッサンがスマホをいじって立っていた。
母が
「ああ、通れないねぇ」
と迂回しようとした時、僕は何の悪意も無く自然と
「おう、ちょっとどいてくれい!」
とオッサンに話しかけていた。
オッサンはビックリしながら退いてくれた。
何だかオッサンはブツブツ言っていたように見えたが、僕は
『ありがとうな』
と思いながら悠然と空いた通路を通りぬけた。
母はそんな僕の姿に少し引いていたらしく、
「おかしな人だと思われるよ」
とも言われた。
まあ、確かに昔の僕なら何も言わずに、迂回していただろう。
それこそ、相手こそがヤバい人なら事件に巻き込まれる可能性だってある。
ただ、田舎暮らしを10年近くして、しかも仕事も爺さん婆さんとばかりしていると、これが普通になってしまう。
「おい、通るどー!」
「おお、すまんすまん、塞いどった」
なノリである。
でも、確かに移住したての時は、何だかいつも
「怒られているのでは?」
と思うくらい、地元の人の口調が強いと感じていた。
自分もいつの間にかそうなっていたようだ。
そういえば妻からも
「何で、そんな悟空みたいな喋りかたになってるの?」
と、ある時期から言われたこともあった。
オラ、驚れぇたぞ。
移住の言い出しっぺは妻。
同意したとはいえ、僕は不安で怖くて、当時の心はほぼ無に近かった。
そんな僕の方が残されて、一人田舎で暮らすことになるとはなぁ。
ぶっ飛んだシナリオだ。
でも、馴染んでいるんだよなぁ。自宅に帰るとホッとするし。今のコロナ禍だと、さらに安心出来る環境だし。
とにかく、話し方も、遠慮なく声かける姿勢も、すっかり田舎のオッサンになってしまったようだ。
まあ、地域関係なく、人にもよるだろうけど。
僕の場合、以前の自分とはだいぶ変わったと思う。
ただ、演劇をやっていたこともあって、口調が雑になったり、滑舌が悪くなっているのが、気になりだすとちょっとモヤモヤする。
久しぶりに、発声や滑舌の練習をしようかなぁ。
それにしても、名も知らぬオッサン、驚かして正直すまんかった。
退いてくれてありがとう。