2020年、4月。大腸癌の手術から半年後の検査で、肝臓に転移していることが分かった。

 

これから数年間、そうならないように気を付けて過ごさなくてはと思っていたのに、そうする間もなく転移。

 

今でもはっきり覚えているが、僕は目の前の景色がガラガラと崩れていくのが、例えでもなく本当に見えた。世界が壊れていくのが。

 

ああ、このまま自分も消えてしまいたいと思った。

 

気を失いそうになるのを必死に耐えていた僕とは対照的に妻は落ち着いていた。

 

帰り道に泣いている僕を見て

 

「可哀想に・・・」

 

と思っていたそうだ。大したものだ。

 

ただ、妻の落ち着きが僕を落ち着かせてくれた。

 

「別に今日明日に死んでしまうわけじゃない。少なくとも、今、目の前で生きてるし、普通に生活できてるし」

 

と。

 

特に今のところ症状はないのだ。

(だから余計信じられなかったのだが)

 

さて、妻はどうしたいのか。今度こそは妻の意思を尊重すべきだと。

 

医者は言った。

 

「抗がん剤治療が効いて、小さくなれば、手術できるかもしれない」

 

すぐに手術できないくらいの状態で、しかも、『かもしれない』。というのが現状か。

 

 

妻は標準治療はしたくないと言った。

そう言うだろうと思ったし、僕もそれがいいと思った。

 

『かもしれない』では、辛くなるであろう癌の標準治療は受けさせたくないと思った。何しろ本人が嫌がっているのだから、効果も期待できない。生きるのが嫌になることもあるかもしれない。

 

妻は自然に任せることにした。自分のやりたいようにやることにした。

 

 

 

 

2021年9月22日の朝に妻は他界した。

 

いつから転移していたのかはわからないが、検査で分かってから、約1年半だ。

その1年半についてはまたあとで。

 

最後は自分の希望通り、自宅で穏やかに逝った。

 

我が妻ながら、天晴だと思った。

 

 

それにしてもあんな小さな癌だったのに、半年で転移なんて。

大きさは関係ないのだろう。ステージ4でも治る人いるし。

 

そんなもん無くてもいいのだが、癌にも個性があるのだろう。

みんな一律だったら、癌で亡くなる人も減るだろうにね。

 

発見が早くても亡くなる人もいるし、遅くても生き残る人もいる。

 

もともと転移なんてものはなく、最初からそこにあって、体の状態によって発症するなんて話もある。

 

どれが正解なんて、もう、僕には関係ないけど。