「Secret moon」29

「救いの手」





日を追うごとに、ミニョのお腹は、容赦なく膨らんでいく。
胎児の成長が早すぎてしまい、ミニョの身体は、胎児の成長に耐えきれず、どんどんと衰弱していっていた。

苦しむミニョを、ただ見つめるだけで、何も出来ない自分に、テギョンは、焦燥感を抱いていた。

ミニョの体力は著しく低下し、ベッドから起き上がることも出来ないでいる。
このままだと、出産前に、ミニョも胎児も死んでしまう危険性があった。

それだけは、何としてでも避けたいテギョンは、必要最低限の荷物だけ纏めると、ミニョを連れ、ある人物に助けを求めるため、その場所へと向かった。

テギョンに、バンパイアの血を分け与えた男・・・

『コ・ジェヒョン』の元へ・・・


ジェヒョンが神父をしている教会に辿り着いたのは、真夜中だった。
テギョンは、教会の近くにあるジェヒョンの住居を訪れた。
木で出来た扉を何度か叩くと、扉が開いた。

久々に会ったジェヒョンは、すでに、20年の月日が経っていたが、その容姿は、全く変わっていなかった。

テギョンは、深々と、頭を下げた。

「ご無沙汰しています。あなたの力を貸していただきたい・・・ミニョを・・助けていただきたいのです・・・どうか、お願いします。」

テギョンの腕の中で、ぐったりとしているミニョの姿に、ジェヒョンは驚いたような表情を見せたが、すぐに、扉を大きく開け、テギョンを中へと誘った。

「どうぞ、中に・・・」

ジェヒョンは、ミニョをソファーに寝かせると、ミニョの寝衣を捲りあげ、膨らんだ腹部を手で触りながら、触診をはじめた。

「バンパイアの血のせいでしょう・・・胎児の成長が早すぎますね。このままだと、母体の方が、先に力尽きてしまいます。
大変、深刻な状態です。
とりあえず、先に、胎児の成長を止めましょう・・・」

驚いたように目を見開くテギョンに、ジェヒョンは微笑んだ。

「心配しなくても、大丈夫ですよ。
胎児に少しだけ眠ってもらうのです。その間に、母体の体力回復をしましょう。
テギョンさん、バスタブにお湯を張っていただけますか?
私は、準備がありますので・・」

ジェヒョンは、地下室へと向かった。

テギョンは、バスルームに向かう。
バスルームの丸い天窓には、明るい満月が見える。
猫足のバスタブに湯を張ると、満月の光に照らされ、水面がキラキラと輝いていた。




そこに、地下室から戻ってきたジェヒョンが現れる。

バスタブに、ガラスの瓶に入った香油を滴らしはじめた。

イランイラン ・・カモミール・・ジンジャー・・ ジャスミン ・・パチュリ ・・パルマローザ・・ ベルガモット ・・・

「ウッ・・・」

噎せるような強烈な甘い香りに、テギョンは、思わず口元を覆った。
様々な花をブレンドしたような刺激の強い甘い香りが、バスルームに充満する。

「テギョンさん、あのコに、これを着せて、バスタブの中に入れてください。」

ジェヒョンが渡したのは、薄い布地の
湯着だった。
テギョンは、ミニョが着ていた寝衣を脱がせ、湯着を着させると、ミニョを抱きかかえ、バスタブの中に、そっと入れた。

「しばらく、このまま時間を置きましょう。」

月明かりに照らされたミニョの蒼白い顔を、心配そうに見つめるテギョン。
ミニョを、ひとりバスルームに残すことは、テギョンにとって、気が気ではなかったが、あの強烈な甘い香りに耐えることは、とても出来そうにないと感じ、テギョンは、後ろ髪引かれる思いで、ミニョを残し、ジェヒョンとともに待つことにした。




★★★★

不定期更新で、本当にすみません。
年末の忙しさは、相変わらずですが、暫く振りに、妄想の神様と、テギョンさんが降臨したので、ハナシを覚えているうち(降臨中)に、更新させていただきますね(*´ω`*)

「Secret moon」28

「神様からの授かりもの」




「うっ・・・・」

小さな呻き声をあげながら、ミニョが、ゆっくりと目を開けた。

「ミニョ・・・大丈夫か・・・?」

テギョンは、ミニョの手を握り締め、ミニョの顔を心配そうに覗き込む。

「・・・テギョンさん

・・・私

うっ・・・・」

また、腹部に激しい痛みを感じ、ミニョは、苦しそうに顔を歪める。
痛みを抑えるように、ミニョの手が、腹部に触れた瞬間、ミニョの目が大きく見開いた。

「・・・テギョンさん

・・・私

まさか・・・

妊娠を・・・・」

何度も確認するように、ミニョの手が腹部を触れる。
柔らかな曲線を描いたそこは、熱を帯びたように熱く、皮膚の真下から、心臓のような激しい鼓動を感じていた。

「信じがたいが・・・恐らく・・・

ミニョ・・・すまない・・・

俺のせいだ・・・

このままだと、お前の身体が、危険すぎる。命さえ、落としかねない。

今なら、まだ、堕ろすことができるはずだから・・・

俺は・・・お前を・・・失いたくない・・・」

涙を滲ませながら、テギョンは、ミニョの手を強く握り締めた。

“またしても・・・
自分のせいで、ミニョを苦しめることになるとは・・・”

「テギョンさん・・・

私・・・・・

産みたいです・・・」


「コ・ミニョ!!!

お前・・・わかってるのか!!

死ぬかもしれないんだぞ!!!」

テギョンの鋭い声にも、強い眼差しにも負けない、意思を曲げようとしない、ミニョの凛とした強い眼差しが、テギョンを見つめている。

「ミニョ・・・お願いだ・・・」

懇願するテギョンの瞳からは、堪えきれずに、涙が零れ落ちている。

ミニョは、痛みに耐えながら、身体をなんとか起こすと、テギョンの頬に優しく触れ、ニッコリと微笑んだ。

「私は・・・大丈夫です。
どんなカタチであれ、神様から授かった、大事な生命(いのち)です。その生命を捨てることなど、私には、出来ません・・・
それに・・・愛してるヒトの子どもを産めるなんて、これ以上の幸せは、ありませんから。」

テギョンの頬に触れていたミニョの手が離れ、テギョンの手を掴むと、ミニョは、自分の腹部へと持っていく。

いとおしそうに微笑むその横顔は、すでに、慈愛に溢れた母親の顔だった。






★★★★
























「Secret moon」27

「生命」




それから、一月経ったある日。
夕食を終え、鼻歌を歌いながら、キッチンのシンクで洗い物をしていたミニョに、突然、腹部に激痛が走った。

ガチャン!!!

「ッッッ!!!」

ミニョが手に持っていた硝子のコップが、床に落ち、硝子の破片を散らす。
ミニョは、あまりの痛さに、お腹を抱えるようにその場に蹲った。顔中に脂汗をかき、ドクドクと血が波打つような痛みが下腹部を襲う。

バスルームにいたテギョンが、その音に気づき、音も立てず、瞬時に、ミニョに駆け寄った。

「ミニョ!!??」

濡れた身体にバスローブを羽織ったテギョンが慌てて、ミニョを抱き起こす。
ミニョは顔に落ちるテギョンの濡れた髪から流れる雫にすら反応出来ず、ただ、顔中に脂汗をかき、苦しそうに、荒い息を吐いていた。
テギョンは考える間もなく、ミニョを抱き上げると、ベッドに運び込んだ。

テギョンは、用意した濡れたタオルで、ミニョの額に滲む汗を拭う。

「ミニョ
一体、どうしたんだ?
何が、あったんだ?」

答えることのないミニョは、まだ、痛みで、顔を歪めていた。突然のことに困惑しているテギョンは、今日1日を振り返ってみても、ミニョの様子がおかしいとは思わなかった。
ふと、ミニョの手を見ると、腹部にあり、ギュッと、皺になるくらいに、強く服を掴んでいた。

テギョンは、ミニョの手に重ねるように、腹部に手を添えた。

そのとき・・・

また、テギョンの手に反応したように、突然、ミニョの腹部が、ドクン・・ドクン・・と、激しく波打った。

まるで、心臓のようだ・・・

心臓・・・!?

いや・・・

まさか・・・

常識じゃ、有り得ない・・・

どう考えていても、まだ、月日が浅すぎる。

テギョンは、ミニョの、まだまっ平らな下腹部を見つめた。

テギョンは、一晩中、ミニョの看病をしたが、一度も、ミニョが目を開けることはなかった。

翌朝

テギョンは、ミニョの腹部を見つめ、驚愕していた。

一晩経って、ミニョのまっ平らだった下腹部は、ふっくらと、小さく膨らんでいた・・・。





★★★★

ご無沙汰しています。
あっという間に、12月です。
12月に入ったら、いきなりの寒さに、ビックリしていますが、皆さま、お元気でしょうか?
毎日、忙しい日々を過ごしています。今は、多忙な年末年始を、体調を崩さずに乗り越えらることを第一に考え、ビクビクしながら、過ごしています・・・。
あと、唯一の楽しみは、今、あちらでやっているドラマ『ピノキオ』ですかね。シネちゃんが主演しているんですけどね。リアル視聴は出来ないのですが、YouTubeとかで観てますが、かなり、おもしろいです(*´∀`)
主人公ふたりの恋愛が、なんとも、甘く切ないんですよ。これから、ふたりが、どうなっていくのか、かなり、気になっています(笑)

さて、久々の「Secret moon」は、ミニョの妊娠発覚からはじまりました。
今年中の完結は無理ですけど、残念ながら、私が描く最後のハナシになるかもしれません。最後まで、ガンバっていきますので、これから待ち受けるミニョの運命を、どうぞ、見守ってくださいね。

それでは、皆さまも、どうぞ、お身体に気をつけてくださいね。

それでは、また。

tea