イケメン版

「オペラ座の怪人」

*7*



オペラ座は、相次いで起きた事件に、騒然としていた。
支配人室には、名誉支配人の『モ・ファラン』現支配人『アン・ソンチャン』警官『マ・フニ』、カン・シヌ子爵、執事見習いのジェルミの姿があった。

『『ユ・ヘイ』を降板させ、『コ・ミニョ』をプリマドンナにしろ。
同封の台本を上演すべし。
さもなければ、名誉支配人『モ・ファラン』と、オペラ座の秘密を暴露する』

それは、新たに送られたFからの脅迫状だった。

「一体、どういうことでしょう・・・名誉支配人、心当たりは・・・?」

脅迫状を見ながら、首を傾げるマ警官。

「ないわ・・・すべて、Fの戯れ言よ・・・」

どことなく苛々を隠せないファランを、シヌは、訝しげに見ていた。

「そうですよね・・・
で、一体、どうすればいいんでしょうか?ユ・ヘイは、だいぶショックを受けられており、舞台に立てる状態ではありません。Fに指名されたコ・ミニョは、脅迫状を送りつけた張本人であるFに誘拐されている。」

手の打ちようもなく、アン支配人は、頭を抱えていた。

「マ警官、まずは、ミニョを助け出さないと・・・オペラ座の何処かに、Fが使用している抜け道があるはずです。一緒に、探しましょう・・・」

この場で、一番、冷静を保っているのは、シヌだけだった。

「そ、そうですね・・・カン子爵。
ジェルミさん・・・あなたにも、協力をお願いしたいのですが、いいですか?」

「はい!」

お茶を運んでいたジェルミに、マ警官は声をかけた。
シヌ、マ警官、ジェルミは、部屋を出ていく。

「名誉支配人、先ほど、送られた台本を読んだのですが、相変わらず、構成、シナリオ、楽曲すべて素晴らしい出来でした。
これが、Fの手によるものだとしたら、奴は、とんだ天才ですね・・・」

感嘆するアン支配人。
ファランは、アン支配人の声すら耳に届かず、唇を噛み締めていた。


その頃、静寂な地下室に、ミニョの歌声が響き渡っていた。


「・・・わかっただろ?
俺は、一生、誰にも愛されることはない。
お前は、美しい『天使』に恋しただけだ・・・それに、お前だって、『醜い』と思うだろ?同情なんかで、お前に、愛されたいとは思わない。
・・・だから
今すぐ、此処から出ていけ!
咄嗟にお前を連れてきてしまったが、お前の居場所は、こんな光の届かぬ闇の世界じゃない。光に溢れた舞台だろ?
それに、『天使』も『悪魔』も、お前の前に現れることはない。安心しろ。
光の世界で、あの子爵と幸せになればいい。」

テギョンの衝撃的な告白にも、突き放されても、ミニョは諦めなかった。

「・・・同情なんか、じゃないです。
・・・お願いです。もう一度、貴方のレッスンを受けたいです。」

ミニョの凛とした真っ直ぐな眼差しには、眩い光が溢れている。

「お前、本気なのか?」

「ええ、私の夢は、プリマドンナとして、オペラ座の舞台に立つことですから・・・。貴方がくれたチャンスを逃したくないです。」

「・・・わかった。これが送りつけた台本だ。完全に歌いこなし、自分のモノにしてみせろ」

ミニョは、声が嗄れるまで、歌い続けた。

「もう、十分だ。このままだと、喉を痛める。一旦、休むぞ。」

はぁ…と、ぐったりと疲れたように、ソファーに座ったミニョは、床に散らばった楽譜を拾い上げた。

「この楽曲も、貴方が作ったモノなんですか?」

「あぁ・・・」

「本当に、素晴らしい音楽の才能の持ち主なんですね・・・どんな姿をしていても、私には、貴方が、『音楽の天使』に変わりはありません。
・・・お願いです。『誰にも愛されない』と、言わないでください・・・
私は、心から、貴方を愛しています・・・」

「そんなこと、言うな・・やめてくれ!!必ず、後悔する・・・。」

「後悔なんか・・・しません。
やっぱり、迷惑・・なのですか?」

「・・・そんなんじゃない。
このままでは、お前を手放せなくなる・・・お前を・・・抱いてしまう・・・」

「・・・いいです」

小さな返事に、驚いたように、目を見開きながらテギョンは、ミニョを見つめる。
ミニョは、頬を紅潮させながら、恥ずかしそうに俯いていた。




★★★★


次回、ブログ最後(?)のアメ記事です。
あんまり期待はせずに、お読みくださいませ。


イケメン版

「オペラ座の怪人」

*6*





「貴方が・・・好きなんです・・・。」

ミニョの瞳から溢れた一筋の涙が、頬を流れ落ちる。
ファントムは、ただ言葉もなく、唇を噛み締めながら、ミニョを見つめていた。その姿が、ミニョには、怒ってるようにも見えた。

“・・・どうしよう・・・私・・・”

ミニョは、オロオロと目を泳がせ、慌てて、口を手で覆った。

「あの・・・私・・ごめんなさ・・・あっ・・・ん ッ・・・」

突然、ファントムが、ミニョの手首を掴み、ベッドに押し倒すと、ミニョの唇を塞いだ。
ミニョの謝罪の言葉は、ファントムの唇によって封じられ、いきなり、唇を塞がれたミニョの目は、驚きで見開いた。
ファントムの舌が、ミニョの口内に、強引に滑り込む。ふたつの舌が絡み合い、息も出来ないくらいの深い口づけに、ミニョは、ファントムのシャツを掴んだ。

やっと、糸を引くように唇が離れると、至近距離で、見つめ合った。
ハァ…ハァ…と息苦しそうに吐き出すミニョの息は甘く、潤んだ瞳と、ほんのりと薔薇色に染まる肌が、扇情的に見えた。

ファントムも、ミニョと同じ気持ちだった。
ミニョの歌声に惚れ、そして、初めて目にしたミニョに恋をした。
闇と共存している自分にとって、真っ直ぐで明るいミニョは、まるで、光のような存在だった。
光があるところに、闇があるように、ファントムは、いつも、ミニョと共にあった。ミニョの行く場所なら、何処へでも付いていく。
そんな光のような存在が、男に奪われそうになり、ファントムは、激しい嫉妬に駆られ、ミニョを地下へと連れ去った。

やっと、お互いの想いが通じ合ったのに、ミニョを見つめるファントムの瞳には、憂いの闇を湛えていた。

“ミニョを、子爵から奪うように、咄嗟に連れてきてしまったが、果たして、これで、良かったのだろうか・・・
光から背を向けさせ、このまま、闇の世界に引き摺り込んでいいのだろうか・・・”

ふと、ミニョの手が、ファントムの頬に優しく触れる。

「お願い・・・貴方のことを、もっと知りたい・・・教えて・・・。」

“まだ・・・もう少し・・・このまま、俺のそばにいてくれ・・・”

ファントムは、ミニョの手をとると、口づけをし、ミニョの身体を起こした。

「俺の・・本当の名前は・・・ファン・テギョン だ・・・
俺の父親も作曲家だった。
オペラ座での舞台音楽を任され、日夜、作曲に励んでいた。
母親は、作業に没頭する父親に愛想を尽かし、家を出て行くことが多かった。
そんなある日、家が火事になった。
その火事で、父親は死んだ。
楽譜は全て燃え、俺も・・・」

テギョンは、ゆっくりと仮面を外してみせた。
顔の右半分が、皮膚が剥け、赤く、痛々しい火傷の痕が残っていた。
ミニョは、言葉を失い、息を呑んだ。

「醜いだろ・・・」

テギョンは、自嘲気味に笑うと、仮面を付けなおした。

「・・・なんとか、命をとりとめた俺は、久々に、母親に会ったが、『こんな醜い子ども、私の子どもでも、なんでもないわ』と、嫌悪された。まぁ、元々、愛されたこともなかったが、な・・・
俺は・・・誰にも愛されないことない。
この顔を見れば、誰もが逃げ出す。
だから・・・俺は、誰にも会わずにいられる、このオペラ座の地下で暮らすことにした。
父親が作った楽曲を、この地下で聴きながら、新たに曲を作った。
そして、俺が作った楽曲を送りつけた。
俺が作った楽曲は、観衆の前で披露され、大いに、称賛された。
が、俺の舞台を台無しする者には、痛烈に批判をし、舞台から引き摺り落とした。
時には、仕掛けをつくり、舞台を混乱させることもあった。

すべては、復讐のために・・・

俺の母親は、このオペラ座の名誉支配人、『モ・ファラン』だ・・・」





★★★★

「Secret moon」33

「夢」



院長様と連絡が取れ、会うことになったミニョは、ひとり、ジェヒョンが神父を務める教会で待っていた。

教会に行く前に『何かあったら心配だから、一緒に行く』と言うテギョンに、ミニョは、『院長様に会うだけだから、ひとりで大丈夫です。それに、ジェヒョンさんも居てくれますから・・・』と、やんわりと断り、不満そうに口を尖らすテギョンをジェヒョンの家に置いてきた。
ミニョは、一番後ろの長椅子に座り、静かに、大きなお腹を撫でている。

「ジェンマ」

後ろから声を掛けられ、ミニョは振り向いた。
ミニョは、懐かしい院長様の顔を見るなり、ボロボロと涙を溢れさした。

「・・・思ったより、元気そうで良かったわ」

ミニョの頬を優しく撫でる院長様の手は温かく、見つめるその笑顔は、昔と変わらず、慈愛に満ちていて、聖母マリア様のようだった。
院長様のぬくもりと笑顔が、懐かしく思い、余計にミニョを泣かせていた。

「ごめんなさい・・・院長様。黙って、出ていってしまって・・・何も、連絡をしないで・・・ごめんなさい・・・」

今更ながら、修道院を黙って去ってしまったことを後悔して、ミニョは、子どものように声をあげて泣いた。

「あらあら、困ったコね。そんなに、泣かないで。お腹の赤ちゃんが、ビックリしちゃいますよ。」

院長様は、困ったように笑いながら、ミニョの背中を優しく擦った。

「さぁ、涙を拭いて。あなたに、会わせたいヒトがいるのよ。」

「ミニョ!!」

「お兄ちゃん!!」

そこには、ミニョの双子の兄、ミナムがいた。

「心配させやがって!!バカミニョ!!
修道院から、黙って出ていったって聞いて、驚いたけどさ、やっと連絡が取れたと思ったら、今度は、妊娠したなんて・・・有り得ねぇだろ??
一体、何が起きたんだよ・・・!?」

本当に、大きなお腹をしたミニョを見つめながら、ミナムは戸惑っていた。

「ごめんなさい・・・お兄ちゃん・・・心配かけて・・・」

ミニョは、心から謝りながら、申し訳なさそうに俯いた。

「・・・で、結婚したんだろ?この腹の中の赤ん坊は、父親は、どんなヤツなんだ?連れてきてるのか?」

ミニョは、首を横に振った。

「・・・ううん、ひとりよ。
彼に事情があって、結婚はしてないけど、一緒には暮らしているわ・・・」

「お、お前、まさか、不倫!?」

「もう・・神様や院長様に怒られるようなことしないわよ。」

頬を膨らますミニョ。

「確か、お前の子どもの頃の夢が、『お嫁さん』だったよな?
いいのかよ!?結婚もしないで・・・お前は、幸せなのかよ?」

「ウフフ・・よく覚えてるね、お兄ちゃん。
大丈夫よ、彼の事情は、よくわかってるから・・・。
結婚しなくても、もちろん、幸せよ。本当に優しいヒトなの。私のことを大事にしてくれる。私には勿体ないくらいに、本当にステキなヒトよ。」

テギョンのことを話すミニョは、幸せそうで、大きなお腹を優しく撫でるその横顔も、慈愛に満ちていて、ミナムには、同じ顔をしていたはずの妹のミニョが、とても美しく見えた。

「・・・そうか、お前は、幸せなんだな・・・」

「お兄ちゃんは?幸せ?」

「まあ、幸せな方かもな。あと、もう一歩で、夢に近づけそうだし・・・」

「・・・そう言えば、お兄ちゃんの夢って、何なの?」

「歌手になること!!あともう少しなんだ。今、受けてるオーディションが通れば、デビューを約束される。」

「スゴいね、お兄ちゃん!!」

「デビューしたら、きっと、お前も、街で騒がれるようになるぞ」

「なんで?」

「だって、俺ら双子だろ?顔もそっくりだし・・・」

「あぁ、そういうことね。お兄ちゃんなら、きっと大丈夫だよ。」

「あぁ、サンキュ
オレ、バイトの時間だから、そろそろ行かないと。」

「うん、お兄ちゃん、会いに来てくれて、本当にありがとう・・・。
お兄ちゃん、元気でね。
・・・ずっと、幸せでいてね。
お兄ちゃん・・・大好きよ」

・・・もしかしたら、もう、ミナムに会えないと思うと、ミニョは淋しくて、別れを惜しむように、ミナムに抱きついた。
子どものように、ギュッと抱きついてくるミニョに、ミナムは、「どうしたんだよ・・・」と呆れながらも、ミニョの背中を優しく叩いた。

「お前も、元気でな。
元気な赤ん坊、産むんだぞ。」

「うん、ありがとう」

ミナムは、グスグス泣いているミニョの頭をポンポンと優しく叩くと、『じゃあな』と笑顔で片手をあげながら、教会を後にした。

ジェヒョンと話していた院長様が、ミニョのところに戻ってくる。

「院長様、ありがとうございます。
お兄ちゃんに会わせてくれて・・・本当に良かったです。
院長様にも会えて、本当に良かったです。足を運んでいただき、本当にありがとうございます。」

ミニョが、深々と頭を下げる。

「ジェンマ・・・

私も、あなたの幸せそう顔を見れて、本当に良かったわ。
修道院に引き取られたときは、まだ、乳飲み子だったあなたが、今、母親になろうとしているなんて・・・
あなたもミナムも、立派に成長してくれて、私は、母親のように誇らしく、本当に嬉しいですよ。
これからも、笑顔を忘れず、幸せでいてね。

どうか、神のご加護がありますように・・・」

「・・・ありがとうございます」

胸で、十字を切る院長様に、ミニョは、頭を下げた。

“本当に、ありがとうございました。

院長様も、お元気で・・・”

院長様を教会の外まで送るミニョ。
去っていく後ろ姿が見えなくなるまで、ミニョは、ずっと、院長様を見つめていた。




★★★★