イケメン版

「オペラ座の怪人」

*11*




モ・ファランが、ひとり、部屋に籠り、琥珀色の液体が入ったグラス片手に唇を噛んでいた。
広い部屋に置かれた絢爛豪華な家具のほとんどは、オペラ座の収益で買ったものだ。

『Fの正体を突き止め、私の過去を暴こうとした、口煩いキムの口を塞いで、やっと、安心できたのに・・・
でも、キムのおかげで、わかったこともあるわ。人の弱味を握り、脅迫してくるFの正体・・・
まさか、と思ったけど・・・
テギョン・・・
やっぱり、あなた、だったのね。
でも、テギョン、あなたが私の息子だったのは、もう、過去のことよ。
私は、穢れた過去なんか、捨てたの。
それに、欲しかったものを、やっと、手に入れたの。
手に入れた名誉も地位も、決して、汚させないわ・・・。』

ファランが、グラスの液体を一気に飲み干した。


後日、ミニョが、アン支配人の部屋に呼ばれた。

「プリマドンナを・・・私が・・ですか?」

ミニョは、目を丸くして、渡された台本を見ている。

「Fからの指名だ。誘拐事件以来、Fは、キミを気に入ってしまったらしい。
舞台で、成功をし、喝采を浴びるのも、逆に、失敗をし、笑い者にされるのも、キミ次第だ。
別に、自信がないのなら、断ってもいい。他の策を考えるつもりでいる。」

“これは、テギョンさんが、私の夢を叶えるためにくれたチャンス・・・
逃すわけにはいかないの。
・・・大丈夫よ。これまで、テギョンさんと一緒に、たくさん練習をしてきたんだから!”

「・・・私・・・やります!
やらしてください!!」

決意を固め、ミニョは、深々と頭を下げた。

「ミニョ!!スゴいじゃないか!!
ミニョの夢が叶うんだね!おめでとう!!」

ジェルミが、興奮しながら、ミニョを抱きつく。

「・・・うん、ありがとう、ジェルミ」

ふたりが喜び合っていると、フンと、バカにしたように、鼻で笑う者がいた。
前プリマドンナのユ・ヘイだ。

「私、あなたに、プリマドンナの座を渡す気ないから。
ねぇ、あなた、純朴そうな顔してるけど、まさか、Fに誘拐されるフリして、Fに近付いて、たらしこんだんじゃないの?
そうじゃないと、Fがあなたを指名するわけないのよ。
Fも、案外、バカな男ね。
せいぜい、あなたが、舞台の上で笑い者になって、Fが消えてしまえばいいのよ!」

ヘイは、憎しみたっぷりに、ミニョを睨み付けると、ツカツカと踵を返す。

「ヘイ様が言ったこと、気にしなくていいからね、ミニョ。」

「うん、ジェルミ、ありがとう。大丈夫よ。」

ミニョは、ジェルミに、ニッコリと笑ってみせた。


そして、地下の隠れ家では、テギョンが最期の大仕掛けをはじめていた。

『ミニョ・・・もう、お前を、この腕に抱くことは出来ないかもしれないが・・・お前の幸せを願い、お前の望みを叶えることが、俺に残された、唯一の光・・・

そして、俺は、闇とともに、終焉へと向かうだけ・・・』





★★★★

イケメン版

「オペラ座の怪人」

*10*




シヌは、ミニョの楽屋にあった全身鏡がずれていることに気づいた。
鏡を退かすと、地下室への隠し通路が現れた。シヌは、考える間もなく、地下へと下りた。
地下には、水路の水が流れ、シヌは、水しぶきをあげながら、薄暗い地下を歩いた。
そして、怪人の隠れ家を見つけ、体当たりでドアを開け、中に押し入った。
テギョンと出会すこともなく、ミニョを見つけたシヌは、ミニョを抱き締めながら、ミニョが無事であることを確認し、安堵の溜め息を吐いた。

「ミニョ・・・探したよ。
さぁ、此処から出よう。此処は、怪人がいて、危険だからね」

そのとき、突然、シヌが、何者かに首を絞められる。

「そこまでだ・・・
本当に、目障りなヤツだな・・・」

シヌの背後で、背筋が凍りそうなほどに、低く冷たい声を発し、シヌを睨んでいるテギョンが、持っていたナイフを、シヌの首筋に這わす。

「テギョンさん!!やめて!!!」

ミニョの叫び声に、テギョンの動きが一瞬、止まる。その隙をついて、シヌが体当たりをして、その場を回避をした。
呻き声をあげながら、テギョンは押し倒され、シヌは、ミニョの腕を掴むと、その場から逃げていく。

「ミニョ、行こう」
「・・・テギョンさん!!」

後ろ髪を引かれる思いで、隠れ家を後にするミニョは、テギョンから視線を外せなかった。

やっと明るい地上へと戻ってくるふたり。

「ミニョ・・・大丈夫かい?」

もう一度、明るい場所で、シヌは、ミニョの様子を窺う。
しかし、ミニョの顔色は、どこか優れず、俯いたままだった。
しかも、薄暗い地下では、よく見えなかった、ミニョの首筋や胸元には、幾つものの鬱血の痕が見え、シヌは目を疑った。

「・・・シヌお兄様、ごめんなさい。
気分が優れないの。少し、休ませてくれませんか?」

「あぁ、わかった。マ警官やアン支配人たちにも報告をしないといけないから、一旦、出ていくよ。」

部屋にひとり残った、ミニョは、ベッドに横たわる。

「・・・テギョンさん」

涙を流し、愛しいヒトの名前を、何度も囁き、愛された記憶を思い出すように、震える自分の身体を抱き締めた。




★★★★