イケメン版

「オペラ座の怪人」

*13*



悲鳴をあげ、逃げ惑う人々を見つめながら、ファランがその場に崩れ落ちた。

「『オペラ座』がなくなることは、プライドの高いあんたにとって、死より辛いことだろう?
この『オペラ座』と共に、俺の復讐も終わる・・・。」

マントを翻しながら、舞台から去っていくテギョン。

「テギョンさん!!」

「ミニョ!!ダメだ!!」

テギョンを追おうとしたミニョの腕をシヌが掴む。

「ごめんなさい、シヌお兄様・・・」

ミニョは、シヌの腕からすり抜けると、急いで、テギョンを追った。

劇場は、すでに、煙が充満し、炎があがり、燃え上がりはじめている。
逃げ惑う人々の波に逆らいながら、ミニョは、テギョンを、必死に探し求めた。

「・・・テギョンさん」

煙を吸い込んでしまい、激しく咳き込むと、意識が朦朧としはじめ、ミニョは、意識を失い、その場に崩れ落ちた。

ピチョン・・ピチョン・・

水滴が落ちる音で、ミニョが目を醒ます。
ミニョが慌てて起き上がり、辺りを見回す。そこは、地下にあるテギョンの隠れ家だった。

「テギョンさん!?」

ミニョがベッドから下りると、部屋の中、テギョンを探した。

そして、やっと、後ろ姿を見つけたミニョは、後ろから、テギョンに抱きついた。

「テギョンさん・・・会いたかった・・・」

「・・・ミニョ」

「テギョンさん、お願いです。
もう、貴方と離れたくないです。
これから、ずっと一緒に、ふたりで、此処で生きてきましょう・・・
テギョンさん・・・愛してます・・・」

テギョンの背中に、ミニョは頬を擦り寄せていると、突然、テギョンが、振り向き、ミニョを強く抱き締め、ミニョに口づけをした。
すると、テギョンに口移しで、何かを飲まされたらしく、驚きで目を丸くしたミニョの喉がコクンと鳴った。抱いていたミニョの力が抜けていく。

「ミニョ・・・
ありがとう・・・俺を愛してくれて・・・
美しい音楽と、お前の歌と、愛し合った記憶があれば、俺は、地獄の苦しみでも生きていける・・・
ミニョ・・・愛してる
永遠に・・・」

テギョンは、ミニョのぬくもりを忘れないように強く抱き締めながら、咽び泣いていた。

次に、ミニョが気づいたときに見たのは、心配そうに見つめるシヌの顔だった。

オペラ座は燃え尽き、姿を消した。
焼け跡から、何体かの遺体を回収したが、『F』であるファン・テギョンの遺体は見つからなかった。
不可解な謎を残しながら、オペラ座は、終焉を迎えた。


そして、ミニョは、別の劇場でスカウトされ、プリマドンナを務めた後、シヌと結婚をした。

そして、長い年月が流れ、ミニョがこの世を去った。

ミニョの白い墓の前には、深紅の薔薇が絶え間なく彩られていた。





★★Fin★★








イケメン版

「オペラ座の怪人」

*12*



『オペラ座』に新しいプリマドンナ(歌姫)が誕生することを知った人々が、舞台を観るために、『オペラ座』に集まってくる。
天井に吊り下がった巨大なシャンデリアが輝く客席は、満席になっていた。

ついに、舞台の幕があがる。
舞台衣装の白いドレスに身を包んだミニョは、舞台袖で、出番を待っていた。
緊張で震える手を、ギュッと握り締めると、胸に手をあてた。

“テギョンさん・・・
貴方が導いてくれた場所に、辿り着くことができました。
私は、貴方のために、歌います。
どうか、聴いていてくださいね。”

出番になり、ミニョが舞台に登場する。

ミニョの登場により、客席は、水を打ったように静まり、視線がミニョへと集まっていく。
ミニョは、眩いライトに照らされた舞台の真ん中に立つと、ゆっくりと息を吐き出すと、歌いだした。

美しく澄んだ歌声が、オペラ座に響き渡っていく。
ミニョは歌いながら、テギョンに教えられてきたことを思い出していた。

『オペラ(歌劇)は、人生だ』、とテギョンに教えられてきた。
役者(歌手)は、登場人物の人生を謳いあげなくてはならない。
そのためには、登場人物の心情に寄り添い、深く理解をしなくてはならないのだ、と。

情感豊かに歌い上げていくミニョに、観客は引き込まれていた。

そして、見事、演じきったミニョが見たのは、新しいプリマドンナ誕生を祝う観客のスタンディングオーベションだった。

「新人だと思っていたが、実力十分じゃないか・・・」

アン支配人は、ホッと胸を撫で下ろし、横にいたジェルミは、満面の笑みで拍手をしていた。
客席にいたシヌは、舞台上で、美しく輝くミニョの姿に見惚れていた。
舞台袖にいたユ・ヘイは悔しそうに、唇を噛み締めていた。

アンコールの声に応えるように、ミニョが歌いはじめると、天井から、深紅の薔薇の花びらと紙切れが落ちてくる。
紙切れには、「名誉支配人モ・ファランが、夫ファンギョンセを殺した真犯人」だと書かれていた

「名誉支配人、これは、本当ですか?」

「嘘よ、全て、デマに決まっているわ!!」

ファランは、唇を噛み締めながら、金切り声をあげた。
上を見上げる人々が、次に見たのは、5番ボックス席の人影だった。

「オペラ座の怪人だ!!」

大騒ぎの中、突如、舞台に現れるひとりの男。

「・・・テギョンさん?」

「テギョン・・・テギョンなの!?」

「久しぶりですね、母さん」

「テギョン、あなた、なんてことをしてくれたの!?」

「皆様に、本当のことを申し上げたくて・・・此処にいる私の母 モ・ファランは、私の父であるファン・ギョンセと口論の末、刺し殺し、父が書き溜めた楽譜に火を点け、家を炎上させた、と・・・」

「ち、違うわ・・・誤解よ、テギョン。確かに、あのとき、私は、酷く酔っていて、ギョンセと言い合っていたけど、そんなこと、してないわ・・・。」

「まあ、確かに、すでに時効の事件ですからね。今更、あんたが白状したとこで、警察に捕まることはないでしょうね。
あんたは、火傷を負った醜い息子を捨て、何事もなかったように、未亡人となったあんたは、オペラ座の前支配人と結婚し、その前支配人が亡くなり、オペラ座の名誉支配人になった。

俺は、醜い姿を隠し、光が届かない地の底で、あんたの復讐をずっと考えていた。法律で裁けないのなら、俺の手で裁いてやろうと・・・

この『オペラ座』も、俺の手で、素晴らしい終焉を迎える」

パチンと、テギョンが指を鳴らすと、次の瞬間、巨大なシャンデリアが、突然、客席へと落下した。
パニックと化した客席は、悲鳴をあげながら、大騒ぎになっていた。




★★★★




「Secret moon」35

「永遠(とわ)に・・・」



臨月を迎えたミニョの腹は大きく、空気の入った風船のように張り、重みもあった。その重みで、ベッドから起き上がることも出来ず、ミニョは、ただ、じっと、その瞬間を待っていた。
そして、真夜中に、突然、激痛が襲った。
長い陣痛のはじまりだった・・・。
ミニョは、絶え間なく押し寄せる陣痛に堪えていた。
荒い息を吐いて、呻き声をあげながらも、痛みに堪えるミニョの顔は苦痛で歪み、目尻には涙が滲んでいた。
額には、玉の汗をかき、前髪も、汗で濡らしていた。

「ミニョ・・・」

テギョンも、不眠不休で、甲斐甲斐しく世話をしていた。ミニョに水を与え、額や熱くなった身体を、濡れタオルで冷やしながら、ミニョの背中や腰を擦り続けていた。

やっと、子宮口が開いたのを、ジェヒョンが確認し、分娩がはじまる。
息んでも、息んでも、なかなか赤ん坊が出てこない。
痛みに堪え、涙を流しながらも、懸命に赤ん坊を外に押し出そうとした。

「よし!頭が出てきましたよ!
もう少しだ!頑張れ!」

すでに、息も絶え絶えで、意識も朦朧としていた。それでも、ミニョは、最期の力を振り絞った。

「オギャアー!!!」

部屋中に響く、大きく力強い産声。

「元気な男の子ですよ!」

ジェヒョンが、赤ん坊を抱き上げた。

「ミニョ、よくやった。頑張ったな」

元気な産声で泣く我が子の姿とテギョンの言葉に、ミニョが微笑んだのも一瞬、強く握り締めたミニョの白い手が、テギョンの手から力なく落ちていく。

「・・・ミニョ!!!」

テギョンの目が、大きく見開く。
何度も、ミニョの名前を呼び、身体を揺すった。
あまりにも悲痛なテギョンの声が、部屋に響き渡っていた。



そして・・・

3年の月日が流れていた。

満月が輝く夜。
テギョンの屋敷の2階の窓が開いていて、風で、カーテンが揺らめいている。

その部屋には、テギョンと、もうひとりの姿。

「ミニョ・・・」

ベッドで眠る愛しい人の名前を呼ぶが、返事はない・・・。
ミニョは、あの命懸けの出産で、なんとか、一命はとりとめたが、今は、深い昏睡状態に陥っていた。

「愛してる・・・ミニョ。
お願いだ。早く、目を醒ましてくれ。」

テギョンが、ミニョの額に口づけを落とす。

「そして、永遠(とわ)と、共に生きよう・・・」

テギョンの緋色の瞳が妖しく輝く。
月明かりを浴びたミニョの肌は、透き通るように、白く輝いていた。





★fin★