「恋しくて…」
*16*
ミニョの部屋から、タクシーに乗ってホテルに戻るテギョンは、上機嫌だった。
先ほどまで重なっていた唇はまだ熱を持ち、着ているコートからも、ふんわりとミニョの甘い残り香がする。
このまま、ミニョの部屋に泊まりたい気持ちもあったが、お互い明日も仕事ということもあり、支障を来すことも考え、諦めた。
それでも、腕の中で、顔を真っ赤にしながらも、口づけに懸命に応えようとするミニョがいじらしくて、ついつい、夢中になってしまい、離れがたいものがあった。
それでも、残っている理性を総動員して、ミニョの唇から唇を離す。息苦しかったのか、甘い息を吐くミニョの紅い唇に、また煽られそうになったが、ミニョの額にキスを落とすことで落ち着いた。
「おやすみ、また明日」
テギョンは、ポーカーフェイスと理性をなんとか保ちながら、ミニョの後ろにあるドアノブに手を掛け、ミニョの部屋を出たのだった。
そして、翌朝。
本日は、ニューヨークの音楽スタジオを使用しての撮影だった。
数々の有名ミュージシャンも使用している音楽スタジオで、写真集の特別付録として一曲収録することになっている。
メンバーたちは、レコーディングルームに入り、音会わせをしていた。
ソンミンたち、撮影チームもレコーディングルームに入ってくる。
「あっ!!ミニョ!おはよう!」
ミニョを見つけたジェルミが手に持っていたドラム用のステッキを振りながら挨拶をする。
「おはようございます。」
ミニョにとっては、久しぶりのレコーディングルーム、そして、楽器を持ち演奏するメンバーの姿だった。
ステージ衣装じゃない私服でも、音楽と向き合う姿は、ミニョには、いつも以上にキラキラと輝いてみえた。
スタンドマイクを持ち、いつもよりラフでカジュアルな格好をしたテギョンが、美声を聴かせる。
あぁ、やっぱり、このヒトは、一番にキラキラと輝いているお星さまだ・・・。
ピンスポットもないのに、そこだけ一番、輝いているように、ミニョは見えた。
普段は見れないレコーディングの様子やその合間に見れるオフショットをカメラに収めていった。
撮影は、1日かけて終了した。
「お疲れ様でした。明日は、皆さん、1日オフですよね?ゆっくり休んでくださいね。」
帰り際、ミニョがメンバーの元に来て、挨拶をする。
「お疲れ様。ミニョは、明日も仕事?」
シヌがミニョに問いかける。
「はい、明日は雑誌の撮影があるので…帰って、これから準備です。」
「うぅぅ…残念。明日、ミナムと一緒に自由の女神に行くから、ミニョも一緒にどうかな…って思ったのに…」
「ごめんなさい、ジェルミ」
「ううん、お土産買ってくるから楽しみにしててね。」
「ありがとうございます、楽しみにしてますね。」
ニッコリ笑うミニョ。
「ミニョ、超~かわいい!!天使だぁ~!!」
両手を広げて抱きつきそうになるジェルミの首根っこをいち早く掴んだのは、テギョンだった。
「テギョンさん、お疲れ様でした。」
ミニョは、ペコリと頭を下げる。
顔を上げ、テギョンと顔を合わせたとき、ミニョの頬が一気に熱くなるのを感じた。
「ヒ、ヒ、ヒョン、離して・・・苦しぃ・・死んぢゃう・・・」
チッと舌打ちしながらテギョンは、ジェルミを解放する。
「へぇ~、ファン・テギョンって、ジェルミ相手でも、結構、嫉妬深いヤツだったんだな…コワイ、コワイ」
クククと袖で口元を隠して笑うミナム。
『こっちは、悪魔だ…』
ジェルミの目には、ミナムの体に悪魔の角としっぽが見えていた。
そして、テギョンを見つめたまま、真っ赤に染まったミニョの頬は、どう見ても、恋する乙女だった。
「ミナム、行こ…」
この甘い空気は、オレら、お呼びじゃないって感じ?
なんだ、コレ?
一度、ミニョにフラれてるのに…2度目のハートブレイクみたいな感じ…
ジェルミは、ミナムの肩に手をおく。
「ジェルミにしては、珍しく空気読めたか…」
ニヒヒ、悪魔がもう一度、オレに笑いかけた気がした。
★★★★