「恋しくて…」*15*
着替えるために、ベッドルームに入ったミニョは、ドアが閉まると同時に、ガタガタと身体が震え、腰が抜けたかのようにズルズルとその場に崩れ落ちるように座り込んだ。そして、壊れたように鳴り響く心臓を、手でギュッと抑え込むようにして、大きく息を吐き出した。
『こ、これ…って、夢…?
やっぱり、都合のいい夢を見てるだけなの…?』
あまりにも幸せすぎる展開に、夢を見てるだけなのか、とミニョは疑ってしまい、確認のため、そっとドアを開けて、部屋の外を覗けば、ソファーに座るテギョンの姿が目に入る。
やっぱり、現実なんだと教えてくれる、その姿に安堵してると、視線に気づいたのか、テギョンとばっちりと視線が合ってしまい、ミニョは驚きのあまり、顔を隠し、音を立ててドアを閉めてしまった。
『あぁ・・・なんて、マヌケなことしてるんだろ・・・私。これじゃ、テギョンさんに、誤解されるに決まってるじゃないの…』
ミニョは、自分の失態に飽きれ、溜め息を吐きながら、やっとの思いでクローゼットを開け、服を取り出し着替えた。
ミニョは、もう一度ドアを開け、
「遅くなってすみません、お待たせしました。」
と、テギョンに声を掛けた。
テギョンは、ちらりと腕時計を見るとソファーから立ち上がり、ミニョに近づくと、手を差し出した。
ミニョは躊躇うように、テギョンの顔を見上げると、テギョンは、ミニョの手を掴み強く握った。
自分の手を包み込む、大きくて、温かなぬくもりをミニョは見つめていた。
「もう、絶対、離すなよ。わかったな?」
ミニョは、泣きそうになるのを堪えながら、ギュッと大きな手を握りしめ、何度も頷いた。
そして、部屋に帰ってきたミニョが覚えていたのは、ミュージカルの内容でも、食事の会話の内容でもなく、身体に染み込んだテギョンのぬくもりだけだった。
ミニョの厚手のコートにはほんのりと、テギョンの残り香が香る。
帰り際、別れを惜しむように、玄関でテギョンに抱き締められ、息さえも忘れてしまうようなキスをされたのだった。
そして、名残惜しそうに唇を離したテギョンが、目をギュッと閉じたミニョの紅い顔を、屈託のない幸せそうな笑顔で見つめていたのを、ミニョは、知らない。
そして、ミニョが目を開けたときには、テギョンが、額にキスを落とし、「おやすみ、また明日。」とドアを開けて出ていく後ろ姿だった。
ミニョは夢心地のまま、そのままソファーで眠りこけてしまったらしく、カーテンの隙間から覗く淡い日差しで、目を覚ました。
室内のひんやりとした空気に、クシュン…とミニョはくしゃみをした。
寒さで身体を震わせながら、時間を見ると、出社まではまだ時間があることを確認すると、暖房を入れ、ケトルでお湯を沸かし、今日のスケジュールを確認をする。
テギョンたちの撮影もあと3日。
撮影を終えたあと、テギョンたちは韓国に戻る。
そのとき、私は、何処にいるのだろう・・・
★★★★
キリのいい残り5話くらいで、終わらせたいけど、どうでしょう…
あとは、ミニョのこれからの決断かな…。
ミニョの性格上、きっと悩むだろうな…ということで、また次回です。
寒い日が続きますが、どうぞ、皆さま、ご自愛くださいませ。