「恋しくて…」

*13*



「お疲れ様でした。また明日、お願いします。」

ミニョがA.N.JELLメンバーにペコリと頭を下げると、また撮影スタッフの一員として仕事場に戻っていく。
撮影を終えたA.N.JELLメンバーたちは、夜のスケジュールに組まれているブロードウェイのミュージカルを観劇するまでは時間があり、メンバーたちは、一旦、ホテルへと車で帰っていく。

「ミニョって、仕事何時までだろ?
ねぇ、ヒョン、ミニョも時間が合えば、ミュージカルに誘いたいんだけどいい?」

「別に、構わない」

とりあえず、リーダーの意見を聞くジェルミに、テギョンは、ほくそ笑みを浮かべた。

「じゃ、ミニョに電話しよッ」

『ハロー、ミニョ?
今、どこ?
今夜、時間ある?
一緒にブロードウェイ観に行かない?』

「ミニョ、行きたいって。待ち合わせどうしよ?」

「俺が迎えに行く」

「えっ(°Д°)!?いつの間に!?ヒョン、ミニョのアパート知ってるの?」

「おい、ジェルミ、電話中だろ?」

「あぁ、そうだった。『ヒョンがミニョのアパート知ってるみたいだから、迎えに行かせるから、よろしくね!』」

ジェルミは電話を切ると、驚いた顔でテギョンを見ている。

「…てことは、縒りを戻したの、ヒョンたち?」

「ジェルミ、知らなかったのかよ?あっ、そっか、昨日、クラブで思いっきり、酔っぱらって潰れてたもんな…。」

「なんで、ミナム知ってるのさ。ミニョから聞いたの?」

「いや、クラブでワンコーディーが、
『私がふたりのためにひと肌脱いで、セッティングしてあげたの。今頃、ロマンチックな雰囲気のジャズバーで愛を語り合い、見つめ合っているはずよ。』と、酔っ払って口滑らしているのを、オレとシヌヒョンはただ聞いてただけ…。」

「チッ」

テギョンは、せっかくワンに感謝したのに、ワンの口の軽さに苛立ち、舌打ちをした。

「でも、今朝のミニョの態度で丸わかりだろ?テギョン見て、顔を赤くしてるんだからさ。
でも、ミニョの態度から察するに、まだ完全には縒りが戻ってないみたいだけど…
大丈夫、ヒョン。
オレ、別に反対してないし、うちの妹、超鈍感だから、精々、頑張ってね。」

ミナムは、テギョンにウィンクしてみせるが、テギョンは、今朝、ミニョの頬を弄っていたソンミンを思い出し、気に入らないとばかりに、さらに苛立ち、口を尖らしていた。

ホテルに着いても、テギョンは落ち着かず、居ても立ってもいられず、テギョンは早々と仕度を済ませ、ホテルを出て、ミニョのアパートに着いた。

ドアのブザーを鳴らすと、ドアの隙間から見上げる大きな瞳と視線が合い、テギョンのイライラもどこかに吹き飛んでいた。

「すみません、今、帰ったばかりで…すぐに仕度をするので、良かったら、中で待っててくださいますか?」

「悪かったな、思った以上に早く着いてしまったようだ。」

申し訳なさそうに謝るミニョに、テギョンも悪いと感じ、素直に詫びる。

「いいえ、大丈夫です。今、お茶を淹れますね」

テギョンが部屋の中に入ると、革張りのソファーに座った。何気なく、部屋を見渡していると、ミニョがお茶を淹れたカップを運んできた。

「あの…私、着替えてきますので…」

そそくさと、テーブルにカップを置き、ミニョが頭を下げて行こうとしたとき、テギョンがミニョの手を掴んだ。
ミニョは、掴まれた手を見つめながら、驚いたように目を白黒させて突っ立っているが、テギョンの方は、真面目な顔をしている。
テギョンは掴んだ手を引き寄せ、ミニョを横に座らせた。

「まだ、時間があるから、そんなに急がなくてもいい。帰ってきたばかりだろ?」

ミニョは戸惑ってしまい、言葉も出てこなく、ただ頷くだけで、精いっぱいらしい。

テギョンは手を掴んだまま、ミニョに向き合った。
戸惑いと驚きで揺れているミニョの瞳を見つめながら、ゆっくりと顔を近付ける。
柔らかな羽根が触れるように、テギョンの唇が優しくミニョの唇に触れ、そして、そっと唇を離す。

テギョンは、目をギュッと閉じたままでいるミニョを見つめると、ミニョの赤く染まった柔らかな頬を、大きなテギョンの手がいとおしそうに撫でた。
優しく触れるテギョンの手に、ミニョの長い睫毛が揺れ、瞼を開けると、テギョンと視線が合った。

「お前を、他の誰(男)にも触らせたくない…」

そう囁くテギョンの手は熱く、ミニョの頬をさらに熱くさせ、胸をドキドキと高鳴らせた。








★★★★