「恋しくて…」


*8*




「はぁ・・・・」

何度目の深呼吸の息なのだろうか・・・
先ほどから、緊張しているせいもあるのだろうか、ミニョの鼓動は痛いほどに鳴っていた。
ミニョはワンが渡したメモどおりに指定された場所に来た。

そこは落ち着いた雰囲気のジャズバーだった。
蝋燭の灯りが置かれたテーブル席へと通され、椅子に座る。
店の奥には、小さなステージがあり、ピアノなど楽器が並べられていた。




ミニョは椅子に座り、待ち人を待った。

そして

その場所に現れたのは、

「・・・ファン・テギョン ssi」

テギョンは驚いているのか、目を見開いて、ミニョを見ていた。
テギョンも、ワンにメモを渡され、此処に来た。

「必ず、行きなさいよ、わかった?行かなかったら、天下のファン・テギョンでも、ただじゃ、おかないわよ。」

さすがのテギョンも、ワンのドスの効いた声に脅され、渋々とやって来た。

「はぁ・・・(そういうことか・・・)」

テギョンの小さな溜息が聞こえ、ミニョが項垂れるように俯く。

“ど、どうしよ・・・やっぱり、帰った方が、いいのかな・・・?”

あからさまに不機嫌な態度を見せられるテギョンに、ミニョは困惑してしまうが、次に出てきたテギョンの言葉に、ミニョは驚いた。

「・・・座っていいか?」

「は、は、はい・・・どうぞ・・・」

テギョンがミニョの向かいの席に座る。
面と向かって、お互いの顔も見ていられなくて、目を逸らし、ぎこちない雰囲気が漂うが、それでもお互いが気になってしまうのか、相手をチラチラと見てしまう。

ウェーブのかかった長い髪、肩に掛けたジャケットに赤のノースリーブのワンピース、化粧した艶のある紅い唇

目の前にいるのは『コ・ミニョ』のはずなのに、最後に会ったショートカットのミニョを思い出すと違和感を感じ、知らない女性に会っている気分だった。
それでも、困ったように、大きな瞳を左右に動かし、口をすぼめる仕草は相変わらずで、テギョンは懐かしさを感じていたが、ミニョは、緊張の糸が、まだ張りついたままだった。





★★★★

緊張のご対面。
会話はまだ、なし。
すぐには、戻れませんよね、このふたりは・・・。
口下手テギョンさんに極度の緊張中のミニョちゃん。
もう少しだけ、時間が必要なようです。




モノクロ画像ですが、ミニョのイメージとしてはこんなカンジですね。