「恋しくて…」
*7*
「目、真っ赤だぞ、大丈夫なのか?」
撮影再開と同時に、ソンミンに泣き腫らした真っ赤な瞳を指摘されたミニョ。
「はい、すみません、大丈夫です。」
ミニョは頭を下げ、何事もなかった装いで少し俯き加減のまま、仕事を再開させる。
休憩中、ソンミンは、ベンチでシヌとジェルミに隣を挟まれ、顔を覆って泣いているミニョを目撃していた。
「何かあったのか」と声を掛けようかと考えたが、撮影では見ることがないふたりの優しい顔と、ふたりがミニョの肩や背中を撫でながら慰める姿を見て、ソンミンは、そのまま立ち去った。
コ・ミニョとA.N.JELLとの関係。
メンバーであるコ・ミナムの妹というだけの関係ではない、どこか、深い絆を感じいた。その深い絆を断ち切ってまで、ミニョがアフリカに渡り、韓国に帰ることを拒み、そのまま自分に付いて、ニューヨークにまで来たのか・・・
ソンミンは、ファインダー越しに、A.N.JELLを見つめる。
オーラを感じる佇まい、鋭い視線のファン・テギョン
テギョンとは真逆の柔らかな眼差し、温厚な笑顔のカン・シヌ
満面な笑顔のジェルミ
ミニョと同じ顔なのに、視線の鋭さが違うコ・ミナム
「フィルム交換、カメラチェンジ。あと、ライディング少し落として。」
「はい」
ソンミンの指示で、ミニョたちアシスタントが動く。
メンバーたちの髪や衣装を直しているひとりの女性。
その女性は、アメリカンドラマのヒロインも顔負けの派手なファッションをしている。
「あれ?ワンヌナ??」
「あら、ソンミン久しぶり。」
ワンコーディーとソンミンがハイタッチをしながら軽いハグをする。
ソンミンの横にいたミニョが驚いている。
「ソンミンさん、ワンさんとお知り合いですか?」
「あら、ミニョ?コ・ミニョじゃないの!?」
ミニョに気付き、いきなり抱きつくワンコーディー。
「何、会わないうちに、垢抜けて、可愛くなっちゃって~」
ワンがお構い無しに、ミニョの身体をベタベタ触るのも変わらず。
「ワンヌナがモデル時代に知り合ったんだよ。」
「ソンミンは、まだカメラアシスタントだったんだけど、偉くなったもんね。」
「で、ワンヌナ、欲しい、欲しいって言ってた恋人は出来たの?」
ニヤリと笑うソンミン。
「恋人ね・・・アイツを恋人と言うなら、う…ん、やっぱ違うわ・・・」
ワンの視線の先には・・・
「えっ!?マ室長!?」
ミニョが目を丸くして驚いている。
顔を真っ赤にしながら首を振るワンが話を変える。
「それにしても、ミニョはどうして、ニューヨークにソンミンと一緒にいるの?」
「ミニョは、今、理由あって、俺のアシスタントやってるんだよ。」
「・・・そう。でも、元気そうでよかったわ、安心した。
ミニョ、あとでお茶しましょ?色々と話したいし。」
「はい、喜んで・・・」
ミニョが、嬉しそうにニッコリ笑った。
「キャ~!!カワイイカップケーキがいっぱい!どれにしようかしら?迷っちゃうわ。」
ショーウィンドに並べられたカラフルなカップケーキ。

苦めのコーヒーに甘いカップケーキをテラスで食べる。
「私、今、キャリーの気分よ!最高!」
パシャパシャとスマホで写真を撮りまくるワン。
ハイテンションのワンはひとしきり写真を撮り、撮った写真をSNSに投稿し、やっと気が済んだらしく、目の前のミニョに視線を合わせた。
「ねぇ、ミニョ…どうして、テギョンと別れちゃったの?」
「えっ・・あ、あの・・・」
唐突に聞かれ、ミニョは困惑している。
「フニから聞いたのよ、あなた達、付き合っていたんでしょ?」
「・・・付き合っていたかは、どうかは・・・わからないんです。恋人だったのか、どうかも・・・」
「でも、好きだったんでしょ?テギョンのこと・・・」
「・・・はい、大好きでした。」
「それは、過去形の話?今は?」
「い、いま・・・今も、大好きです・・ずっと、忘れたことは、ありません・・・。」
そう言って、堪えきれずに泣き出すミニョ。
「じゃぁ、どうして、別れちゃったの?
テギョンだって、あなたのこと好きだったはずよ?」
「・・・それは、一緒にいると、お互い傷つけ合ってしまうから・・・離れた方が、お互いに良かったんです。だから、離れたんです。」
「どうして、離れちゃったのよ。離れちゃったら、その傷は、どうしようも出来ないじゃない。お互い傷つくとか傷つけ合ったなら、またお互いの傷を癒したり、温め合えばいいじゃない。一緒にいることによって、変わっていくことだって、あるのよ?」
涙ながらに訴えるワンが、ミニョには嬉しかった。
「私が、とても不器用だったんです。離れた方が、お互い、辛くなることも、傷つくこともなくなるだろう、と・・・
今日、ジェルミにテギョンさんの歌を聴かせてもらいました。
テギョンさんが歌っていた歌は、たくさんの想いが詰まった歌でした。
テギョンさんが、大事にその歌を歌ってくれていたことが、嬉しくて・・・」
「その言葉、テギョンに言うべきじゃない?」
「えっ?」
「お互い顔を合わせづらいのはわかるけど、もう一度、ちゃんと会って、話をしなさい。」
その言葉にミニョがクスリと笑う。
ワンが驚いた顔で見つめている。
「その言葉、ソンミンさんにも言われました。」
「うふふ、ソンミンも、いい男になったわね。
テギョンもミニョも不器用すぎるから。
あなた達に言えることは、もっと、自分に素直になりなさい。かな?
それと、ミニョ、これからは『オンニ』って呼ぶこと。」
「はい、オンニ。」
「うふふ。これまで頑張ってきたミニョのご褒美に、オンニがひと肌脱いであげるから。夜、オシャレして、此処に行きなさい、わかった?」
それは、住所と地図が書かれていたメモだった。
★★★★
ワンコーディー登場です。
キャリーって誰か…

某ドラマの主人公、金髪美人がキャリーです。
ワンコーディーなら絶対憧れていると思い、キャリーとカップケーキが登場しました。
色々な人物を介して、やっと再会出来るかな、ということで次回です。