「VOYAGE」*10*
「褒美」
そして、運命の満月の晩を迎え、ミナム皇子が目を醒ますのを見届けたテギョンたちは、その翌日には、また大海原に旅立ってしまった。
別れは、あまりにも素っ気なく、まだ身体を自由に動かせないミナム皇子と、その横で、長旅の疲れと安堵で眠り続けるミニョ王女に気遣ったのか、別れの言葉すら交わさなかった。
劇場艇「ルーチェ」は次なる国を目指していた。
夜の航海は暗く、海上は何も見えない。
ただ、見えるのは、真上に輝く月だけだった。
そんな月をぼんやりと見上げているテギョンの背中に、通りすがりのシヌが声を掛ける。
「テギョン、これで本当に良かったの?」
「なんのことだ?」
シヌは、敢えて、何が良かったのか、明確にせずとも、テギョンは明らかに不機嫌そうな低い声で答える。シヌは「なんでもない 」と首を振ってみせた。
「アイツは、一国の王女なんだぞ。」
ポツリと呟いたテギョンの言葉は、シヌの耳に届くことはなかった。
それから月日が流れ・・・
立ち寄った「ヴェント」で、手紙を受け取ることになる。
「良かったよ。キミたちに会えて。
必ず、キミたちに渡すように、「ルーナ王国」のミナムに頼まれたんだ。」
手紙を受け取り、再び、「ルーナ王国」へと、劇場艇「ルーチェ」が向かった。
久々に訪れた「ルーナ王国」は、目覚ましい変貌を遂げていた。
街は、活気に溢れ、また、各国との外交を再開したらしく、港も大きくなり、船が出入りしていた。
テギョンたちが久々に「ルーナ城」に挨拶に向かった。
謁見室で現れたのは、「ミジャ女王」ではなく・・・
「「「ミナム!?」」」
テギョンたちが驚きの声をあげる。
ミニョ王女と瓜二つの顔が王座に座る。
「もう、無礼な!!此処に居られますのは、ミナム国王でありますよ!!」
ミナムの横にいたマ執事が焦っている。
「マ執事、別にいいよ。この人たちは、命の恩人だから、構わない。
手紙を読んでくれたんだな、よかった。あぁ、挨拶が遅れたな。
オレは、ミナム。
オレの命を助けてくれて、本当にありがとう。
オレが目を覚ました頃には、あんた達いなくなっちゃったからさ、ちゃんと礼も言えずに、どうしようかと思ったんだけど・・・やっと、顔見て、礼が言えるよ。
あぁ、なんで、国王なんだ?って思うだろ?
国王なんてガラじゃないんだけどさ、色々あって、前任のミジャ女王をクビにしちゃったからさ、その成り行きでね。
で、褒美は何がいいの?欲しいものとかないの?」
人懐っこい笑顔でニッコリ笑う、その笑顔まで、双子のミニョ王女と同じ顔なのに、性格は、全くの正反対で、3人は混乱していた。
「ない」
首を横に振るテギョン。
「えぇぇぇ…!!(゜ロ゜ノ)ノ
そうなの?褒美が欲しくて来たんじゃないの?
別に、遠慮することないのに・・・
まあ、とりあえず、せっかく来たんだからさ、ゆっくりしていってよ。ね?
あと、来たからには、公演もよろしく頼みます。国民がね、楽しみにしてるからさ。あと、ミニョも観たがってたから、一緒に連れて行くから、頑張ってくれよ。」
謁見室を立ち去るミナム国王。
「この国は、あんなおちゃらけ国王で大丈夫なのか?」
呆れたように、テギョンが首を横に振る。
「でも、前より、街は活気に溢れてるし、ミナムの光の力は更に強くなってる。ジェルミと同じ人懐っこさが彼の強みなんじゃないかな。」
シヌは、ニッコリ笑う。
「うん。オレ、ホンモノのミナムとも仲良くなれそう。ミニョは、どこにいるんだろ?さっき現れなかったね。ミニョに早く会いたいのに・・・。」
ジェルミは城内をキョロキョロと探し回る。
「おい、早く、船に戻って、準備するぞ」
テギョンは、ジェルミを置いて、城を出て行ってしまう。
「王女様に、一番会いたいのは、一体、誰なんだろうね?」
テギョンの背中を見ながら、シヌはクスクス楽しそうに笑っていた。
★★★★