「VOYAGE」



「フォンセ(闇の国)」*7*






最後に着いた国は、暗闇と静寂に包まれた「フォンセ(闇の国)」だった。

当たり前のように空に浮かぶ月もなければ、星の輝きもない。
光さえなければ、隣に誰がいるのかもわからない、その暗闇は、孤独と恐怖さえも感じてしまう。
唯一、用意したランタンの小さな光だけが、暗闇にユラユラ揺れていた。

「真っ暗で、何も見えませんね。」

どこを照らしても、暗闇が続くだけだ。

「あの…テギョンさん、大丈夫ですか?」

いつも先陣を切って歩いているテギョンの歩調がいつもより遅い。
心なしか、顔色さえ悪く見えるテギョンに、ミナムが声をかけた。

「此処は、昔、光で溢れた『ルーチェ』と言う名の美しい国だった。
『ルーチェ国』の国王が病死し、妃だった魔女が、この国を暗闇に変えてしまった。俺たちは、故郷の名を船に付け、故郷だったこの国を捨てた。
俺たちは、この国をもう一度、光が溢れた美しい国に戻したかった。
途中、各国をひとり旅をしていたウィザードのシヌを仲間にした。
表向きは、劇団『ANJELL』として活躍をしながら、海賊として、各国の由緒ある宝を探しながら、この国を戻す方法があるのではないかと、思った。」

テギョンは、静かに過去を語る。
ミナムはただ黙って、テギョンの話に耳を傾けた。

「でも、何も見つからなかった。
最後に残された国が、『ルーナ王国』の太陽と月の指輪だった。」

テギョンは、ふたつの指輪をポケットから取りだし、掌においた。

「結局、俺が手にしても、何も起こらなかった。
だから、これは、お前に返すことにする。」

ミナムが、テギョンから指輪を受けとる。

「昔、お城にいた魔女の大おばあ様に聞いたことがあるのです。
まさか、本当の話だとは思っていなかったのですが・・・
この指輪は、光で溢れた美しい国で作られた指輪だと・・・。
指輪に埋められた石の元は、その国の星の欠片だと聞いています。星の欠片たちは、光を吸収しやすい物質で、太陽の指輪は、太陽の明るい光を浴びさせ、月明かりを浴びさせて作ったのが、月の指輪だと聞きます。
もし、大おばあ様の話が、本当のことであれば・・・」


“此の地の光が途絶えし 

此の地に闇が訪れし

集まれし、星の欠片たちよ

再び、此の地に光を灯さんことを・・・”


昔、魔女から聞いていた呪文を、ミナムが唱える。そして、ふたつの指輪を地面に落とした。

ふたつの指輪の石が粉々に砕けるのと同時に、眩いほどの光に包まれる。

「うわっ!?」「きゃっ!?」

突然の眩しい光にふたりは驚きの声をあげる。
粉々に砕けた石が、次から次へと真っ暗な空へと流れ星のように打ち上がっていく。

ヒュンヒュンと風を切る音に、先を歩いていたジェルミが驚いている。

「な、なに?何が起こってるの!?」

「ジェルミ、上だ、上を見ろ。」

上を見上げていたシヌが、ジェルミに声をかける。

「うわぁ・・・スゴイ!!」


数え切れないぐらいのたくさんの流れ星の数に、そこにいる全員が息を呑んだ。

「光だ。光を取り戻したんだ!!やったぁぁぁ~!!!」

感極まったジェルミがシヌに抱きついて喜んでいる。

ミナムの足元に落ちていた、流星の欠片をテギョンが拾う。
流星の欠片は、キラキラと輝きを放っている。

「『ステラ』
別名、「星の花」。これで、全ての花が揃ったな。」

テギョンがニッコリと微笑みながら、ミナムの掌に『ステラ』を握らせた。







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