「VOYAGE」*5*
「ネージュ(雪の国)」
気候暖かな「ヴェント(風の国)」の次にたどり着いた国「ネージュ(雪の国)」では、一気に極寒の寒さに襲われる。
「クシュン」
薄着のままだったミナムがクシャミをしている。
「ミナム、そんな格好じゃ、風邪をひくよ。オレので良かったら、使って」
シヌが、ミナムの肩に上着を掛ける。
「シヌさん、ありがとうございます」
「ミナム、オレのマフラーと、あと、ブーツ見つけてきたよ。さぁ、使って。」
「ジェルミ、ありがとう」
人懐っこい笑顔で、ジェルミが、ミナムの首に、派手なピンク色の長いマフラーをグルグルと巻きつけている。
一緒に、旅をしていくなかで、ミナムは、同い年でもあるジェルミとも打ち解けることができた。
「行くぞ」
ふたりが揃えてくれた防寒服に着替えたミナムの横を通り過ぎるテギョンは、なぜか、口を尖らし、不機嫌だった。
「はい」
ミナムは、急いで、テギョンの後を追いかける。
「こんな雪しかないような国に、呪いを解く「花」なんかあるのか?」
テギョンにとっても、「ネージュ」は初めて訪れた国だった。何処を見ても、視界に広がるのは、白銀の世界だった。
「あの、テギョンさんは、どうぞ、お構い無く、暖かい船内にいてください。」
防寒服を着ていても寒いのか、ガタガタ寒そう震えているテギョンに、ミナムは心配そうな目を向ける。
「別に行かないとは、言ってない。」
「ありがとうございます。」
エヘヘと嬉しそうに笑うミナムに、テギョンは、片方の口角をあげた。
一行は、『花』の手懸かりを探すため、冷たい風が吹き抜ける雪道を歩いていく。
「あれ?」
突然、ミナムが立ち止まった。
「ミナム、どうしたの?」
怪訝そうにジェルミが聞く。
「ちょっと・・・ごめんなさい。」
ミナムは、そのまま、どんどんと深くなる雪に躓きながら、懸命に突き進んでいく。
「・・・お母様??」
ミナムが、突然、母の名を呼びはじめた。
「おい!!ミナム、何処に行く!早く、戻れ!!」
ミナムの耳には、テギョンの声は聞こえていない。
テギョンは、急いで、ミナムを追い掛ける。
「なんで、ミナムは、死んだはずの母親を呼んでいるの?こんな吹雪の中、誰ひとりいないのに・・・」
シヌとジェルミだけが取り残されてしまう。
「きっと、氷の女王だ。」
「氷の女王?」
「何かの文献で読んだことがあるんだ。氷の女王の冷たい心は、常に愛に飢えてる。
氷の女王は、人間を見つけると、その人間(ひと)の愛していた人物へと姿を変える。
そして、人間に、自分を追い掛けさせるため、その人間に幻影を魅せる。
人間の生命さえも脅かす危険な存在。」
「それじゃ、ミナムの生命が危険じゃないの!?」
「あぁ、でも、これ以上、近付くと危険だよ。風が強くなってきた。
ジェルミ、ミナムのことは、テギョンに任せて、オレ達は、一旦、船に戻ろう。テギョンがいれば、ミナムは、きっと、大丈夫だよ。」
「シヌヒョンが言うなら、ふたりとも、きっと、大丈夫だね」
ジェルミが安堵の表情を浮かべる。
その頃、ミナムが、猛吹雪のなかを、泣きながら、必死に、母の姿をした氷の女王を追いかけている。
「お母様、待って!!お願い、お母様、行かないで・・・」
「ミナム!!何処だ!?」
テギョンも、必死に、ミナムに追いつこうとしている。
やっと、氷の女王が立ち止まる。
「お母様・・・会いたかった・・・」
優しく微笑む母が、ミナムに手を差し出す。ミナムが、一歩、一歩、手を伸ばしながら、母へと近づいていく。
「ミナム!!ダメだ!行くな!!」
テギョンが、間一髪で、ミナムの手を引き寄せた。
反動で、雪の中に倒れるミナム。
「テギョンさん!?どうして?此処に?」
「アイツに、幻影を魅せられていたんだ」
優しく微笑む母の顔が崩れていき、透き通るように真っ白な肌をした綺麗な顔が現れる。
「あともう少しだったのに・・・」
「あ、貴女は・・・?」
「私の名は、ヒヨナ。
そなたの心が欲しかった。私の氷の心は満たされることはない愛に飢えている。私は・・愛されたい・・・」
「そうだったのですね。」
ミナムは、ひんやりと冷たいヒヨナの手を握った。
まるで、氷を握っているような感覚だった。それでも、ミナムは手を離すことはない。
「私の心を差し上げることは出来ませんが・・・少しでも、お母様に会わせていただいて、ありがとうございました。
私のお母様は、愛に満ち溢れ、私たちにたくさんの愛を与えてくれました。そして、お母様が、私たちによくしてくださったことがあります。」
ミナムは、氷のように冷たいヒヨナを抱き締めた。
ミナムの身体の体温が一気に下がり、ガタガタと悪寒で、身体が震えているが、それでも、ミナムは、身体を離さなかった。
「・・・心優しき人間の子どもよ、そなたの愛を、確かに受け取った。ありがとう。 」
ヒヨナは、微かな笑みを残しながら消えていく。
ホッとしたような笑みをみせたミナムが、その場で崩れ落ちた。
「おい!ミナム!!しっかりしろ!!」
テギョンは、慌てて、ミナムを抱き止めた。ミナムの身体は、まるで氷のように冷たくなっていることに驚く。
「おい!!ミナム!ミナム!?」
テギョンは、ぐったりとしたミナムを抱き上げ、近くにあった山小屋に入っていく。暖炉があることを確認したテギョンは、急いで、暖房に火をつけた。ミナムの身体を暖めるために抱き締め、ミナムの身体を擦り続けた。
徐々に小屋の中が暖まっていくのを感じる。
冷たかったミナムの身体が体温を取り戻しはじめ、ミナムの頬に赤みが戻ったのを確認したテギョンは、ホッとしたように、深い息を吐いた。
スースーと寝息を立てるミナムに、テギョンがクスリと笑う。
「子どもみたいな寝顔して、王女の品格ゼロだな。」
テギョンが、眠るミナムの柔らかな頬をつねる。
無防備なミナムの寝顔に、テギョンの心が満たされるように暖かくなるのを感じていた。
テギョンが、眠そうに欠伸をした。
“きっと、夜が明ければ、シヌが、自分たちを探しだしてくれるはずだ。”
テギョンも、身体を寄せあうようにして、ミナムの隣で眠りに就いた。
翌朝、ミナムが目を覚ますと、隣で眠るテギョンの姿に驚いて、声をあげそうになった。慌てて、口元を手で覆い、テギョンの寝顔を見つめる。
“テギョンさんて、寝ているときは、とっても優しそうに見えるんですね・・・
別に、普段のテギョンさんが意地悪に見えるとか恐いとか、そういうわけではないのですよ。最初にお会いしたときは、そう思ったりもしましたけど・・・
でも、この旅では、いつも、テギョンさんに助けられてばかりです。
私は、貴方様に、一体、何を差し上げることが出来るのでしょうか・・・”
テギョンが目を覚ますと、まじまじと自分を見ていたミナムと視線がぶつかる。
「元気になったみたいだな」
テギョンは、ミナムの髪をグシャグシャにすると、安堵の笑みをみせる。
初めてみせた、テギョンの優しいその笑みに、ミナムの胸がキュンと高鳴った。
一度も恋をしたことがないミナムにとって、その胸の高鳴りの意味も知る由もなく、ただ胸に手をあて、不思議そうに首を傾げた。
「何をしてるんだ?早く、船に戻るぞ。」
テギョンが山小屋の外に出ると、目の前に広がる光景に驚いた。
「おい、ミナム、外見てみろ!」
その光景を見たミナムも、驚きで目を丸くしている。
昨日まではひとつも咲いていなかった、キラキラとクリスタルのように輝く『雪の花』が、一面に咲いていた。
「きっと、ヒヨナさんが咲かせてくれたんですね。
ヒヨナさん…貴女の暖かな愛も、確かに、いただきしました。」
ミナムは、ヒヨナに感謝するように、大事に『雪の花』を摘み取った。
★★★★
「ネージュ(雪の国)」
気候暖かな「ヴェント(風の国)」の次にたどり着いた国「ネージュ(雪の国)」では、一気に極寒の寒さに襲われる。
「クシュン」
薄着のままだったミナムがクシャミをしている。
「ミナム、そんな格好じゃ、風邪をひくよ。オレので良かったら、使って」
シヌが、ミナムの肩に上着を掛ける。
「シヌさん、ありがとうございます」
「ミナム、オレのマフラーと、あと、ブーツ見つけてきたよ。さぁ、使って。」
「ジェルミ、ありがとう」
人懐っこい笑顔で、ジェルミが、ミナムの首に、派手なピンク色の長いマフラーをグルグルと巻きつけている。
一緒に、旅をしていくなかで、ミナムは、同い年でもあるジェルミとも打ち解けることができた。
「行くぞ」
ふたりが揃えてくれた防寒服に着替えたミナムの横を通り過ぎるテギョンは、なぜか、口を尖らし、不機嫌だった。
「はい」
ミナムは、急いで、テギョンの後を追いかける。
「こんな雪しかないような国に、呪いを解く「花」なんかあるのか?」
テギョンにとっても、「ネージュ」は初めて訪れた国だった。何処を見ても、視界に広がるのは、白銀の世界だった。
「あの、テギョンさんは、どうぞ、お構い無く、暖かい船内にいてください。」
防寒服を着ていても寒いのか、ガタガタ寒そう震えているテギョンに、ミナムは心配そうな目を向ける。
「別に行かないとは、言ってない。」
「ありがとうございます。」
エヘヘと嬉しそうに笑うミナムに、テギョンは、片方の口角をあげた。
一行は、『花』の手懸かりを探すため、冷たい風が吹き抜ける雪道を歩いていく。
「あれ?」
突然、ミナムが立ち止まった。
「ミナム、どうしたの?」
怪訝そうにジェルミが聞く。
「ちょっと・・・ごめんなさい。」
ミナムは、そのまま、どんどんと深くなる雪に躓きながら、懸命に突き進んでいく。
「・・・お母様??」
ミナムが、突然、母の名を呼びはじめた。
「おい!!ミナム、何処に行く!早く、戻れ!!」
ミナムの耳には、テギョンの声は聞こえていない。
テギョンは、急いで、ミナムを追い掛ける。
「なんで、ミナムは、死んだはずの母親を呼んでいるの?こんな吹雪の中、誰ひとりいないのに・・・」
シヌとジェルミだけが取り残されてしまう。
「きっと、氷の女王だ。」
「氷の女王?」
「何かの文献で読んだことがあるんだ。氷の女王の冷たい心は、常に愛に飢えてる。
氷の女王は、人間を見つけると、その人間(ひと)の愛していた人物へと姿を変える。
そして、人間に、自分を追い掛けさせるため、その人間に幻影を魅せる。
人間の生命さえも脅かす危険な存在。」
「それじゃ、ミナムの生命が危険じゃないの!?」
「あぁ、でも、これ以上、近付くと危険だよ。風が強くなってきた。
ジェルミ、ミナムのことは、テギョンに任せて、オレ達は、一旦、船に戻ろう。テギョンがいれば、ミナムは、きっと、大丈夫だよ。」
「シヌヒョンが言うなら、ふたりとも、きっと、大丈夫だね」
ジェルミが安堵の表情を浮かべる。
その頃、ミナムが、猛吹雪のなかを、泣きながら、必死に、母の姿をした氷の女王を追いかけている。
「お母様、待って!!お願い、お母様、行かないで・・・」
「ミナム!!何処だ!?」
テギョンも、必死に、ミナムに追いつこうとしている。
やっと、氷の女王が立ち止まる。
「お母様・・・会いたかった・・・」
優しく微笑む母が、ミナムに手を差し出す。ミナムが、一歩、一歩、手を伸ばしながら、母へと近づいていく。
「ミナム!!ダメだ!行くな!!」
テギョンが、間一髪で、ミナムの手を引き寄せた。
反動で、雪の中に倒れるミナム。
「テギョンさん!?どうして?此処に?」
「アイツに、幻影を魅せられていたんだ」
優しく微笑む母の顔が崩れていき、透き通るように真っ白な肌をした綺麗な顔が現れる。
「あともう少しだったのに・・・」
「あ、貴女は・・・?」
「私の名は、ヒヨナ。
そなたの心が欲しかった。私の氷の心は満たされることはない愛に飢えている。私は・・愛されたい・・・」
「そうだったのですね。」
ミナムは、ひんやりと冷たいヒヨナの手を握った。
まるで、氷を握っているような感覚だった。それでも、ミナムは手を離すことはない。
「私の心を差し上げることは出来ませんが・・・少しでも、お母様に会わせていただいて、ありがとうございました。
私のお母様は、愛に満ち溢れ、私たちにたくさんの愛を与えてくれました。そして、お母様が、私たちによくしてくださったことがあります。」
ミナムは、氷のように冷たいヒヨナを抱き締めた。
ミナムの身体の体温が一気に下がり、ガタガタと悪寒で、身体が震えているが、それでも、ミナムは、身体を離さなかった。
「・・・心優しき人間の子どもよ、そなたの愛を、確かに受け取った。ありがとう。 」
ヒヨナは、微かな笑みを残しながら消えていく。
ホッとしたような笑みをみせたミナムが、その場で崩れ落ちた。
「おい!ミナム!!しっかりしろ!!」
テギョンは、慌てて、ミナムを抱き止めた。ミナムの身体は、まるで氷のように冷たくなっていることに驚く。
「おい!!ミナム!ミナム!?」
テギョンは、ぐったりとしたミナムを抱き上げ、近くにあった山小屋に入っていく。暖炉があることを確認したテギョンは、急いで、暖房に火をつけた。ミナムの身体を暖めるために抱き締め、ミナムの身体を擦り続けた。
徐々に小屋の中が暖まっていくのを感じる。
冷たかったミナムの身体が体温を取り戻しはじめ、ミナムの頬に赤みが戻ったのを確認したテギョンは、ホッとしたように、深い息を吐いた。
スースーと寝息を立てるミナムに、テギョンがクスリと笑う。
「子どもみたいな寝顔して、王女の品格ゼロだな。」
テギョンが、眠るミナムの柔らかな頬をつねる。
無防備なミナムの寝顔に、テギョンの心が満たされるように暖かくなるのを感じていた。
テギョンが、眠そうに欠伸をした。
“きっと、夜が明ければ、シヌが、自分たちを探しだしてくれるはずだ。”
テギョンも、身体を寄せあうようにして、ミナムの隣で眠りに就いた。
翌朝、ミナムが目を覚ますと、隣で眠るテギョンの姿に驚いて、声をあげそうになった。慌てて、口元を手で覆い、テギョンの寝顔を見つめる。
“テギョンさんて、寝ているときは、とっても優しそうに見えるんですね・・・
別に、普段のテギョンさんが意地悪に見えるとか恐いとか、そういうわけではないのですよ。最初にお会いしたときは、そう思ったりもしましたけど・・・
でも、この旅では、いつも、テギョンさんに助けられてばかりです。
私は、貴方様に、一体、何を差し上げることが出来るのでしょうか・・・”
テギョンが目を覚ますと、まじまじと自分を見ていたミナムと視線がぶつかる。
「元気になったみたいだな」
テギョンは、ミナムの髪をグシャグシャにすると、安堵の笑みをみせる。
初めてみせた、テギョンの優しいその笑みに、ミナムの胸がキュンと高鳴った。
一度も恋をしたことがないミナムにとって、その胸の高鳴りの意味も知る由もなく、ただ胸に手をあて、不思議そうに首を傾げた。
「何をしてるんだ?早く、船に戻るぞ。」
テギョンが山小屋の外に出ると、目の前に広がる光景に驚いた。
「おい、ミナム、外見てみろ!」
その光景を見たミナムも、驚きで目を丸くしている。
昨日まではひとつも咲いていなかった、キラキラとクリスタルのように輝く『雪の花』が、一面に咲いていた。
「きっと、ヒヨナさんが咲かせてくれたんですね。
ヒヨナさん…貴女の暖かな愛も、確かに、いただきしました。」
ミナムは、ヒヨナに感謝するように、大事に『雪の花』を摘み取った。
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