「VOYAGE」
*プロローグ*
空には、黄金色に輝く三日月。
大海原に映る月の船を揺らしながら突き進む一艘の巨大な船。
劇場艇「ルーチェ」
この船に乗っている船員は、劇団「ANJELL」と名乗り、各国を船で旅をしていた。
甲板は豪華な装飾で飾られた舞台が造られていた。
その舞台上では、金髪の男が、汗をかきながら、小道具の剣を振り回していた。
「ねぇ、シヌヒョン、次の国は何処だっけ?」
金髪の男が、舞台に座りながら、本を読んでいる男に声を掛けた。
「次は、『ルーナ王国』だ」
シヌが、古びた地図を広げ、指を差した。
「たぶん、初めての国だよね。」
「ジェルミは、な。」
「シヌヒョンは、行ったことあるの?」
「一度だけ。この国は、国王と王妃が亡くなったあと、長年の間、喪に服していたからね。今は、他国とも交流のない孤立した国みたいだ」
「ふ~ん、今は誰が国を治めてるの?」
「ミジャ女王。前国王の姉らしいね。前国王と王妃の間には、双子の男女の子どもがいたはずだが・・・」
「そういや、テギョンヒョンは何処?」
「さぁ?自分の部屋にでもいるんじゃないか?」
「どうして、テギョンヒョンは、今回、ルーナ王国にしたんだろ?」
「そこに、船長の欲しい宝(モノ)があるんだろ。」
「やっぱり、そうなんだ。」
ニヤリとジェルミは嬉しそうに笑った。
『ルーナ王国』
「さぁ、明日は、待ちに待った「ANJELL」が来るのね。どんなイケメンが来てくれるのかしら。その中に、私の王子様はいるのかしら…」
ルーナ王国のミジャ女王が、高笑いをしている。
「ま、まさか、ミジャ様、まだ、ご結婚をお考えで?」
側近の禿げ頭の男が、呆れたような声を出した。
「何よ?何か言ったの?キム?」
睨むミジャ女王に、焦ったように、キムは首を振った。
「いいえ、何も…」
「で、キム、例の作戦は?」
「ええ、今夜の食事に仕込みました。」
ふたりは、お互いを見合わせ、厭らしい笑みを浮かべた。
「お兄ちゃん?お兄ちゃん!?」
兄の部屋を訪れた王女が、驚きの声をあげた。
王女が見たのは、ぐったりと力が抜けたように、泥のように床で寝ている兄の姿。
王女は、すぐに、マ執事と白魔女のワンを呼ぶ。
ミナムは、すでに、深い昏睡状態に陥っていた。
「ミナム皇子は、何者かに、薬を盛られた、と。やはり、ミジャ様の仕業なのか…」
「マ執事、それを決めつけてはなりません。」
「ミニョ王女!!
これほど、明確な嫌がらせを受けているのに…どうして…」
「それより、今は、兄の療法を探さなければ…ワン様、何かわかりませんか?」
「ミニョ王女、これは、魔術師がかけた呪いです。たぶん、あのキムという男がかけたのではないか、と・・・」
「えっ!?あのハゲ頭のキムが、魔術師だったのですか・・・」
驚きの声をあげたのは、マ執事。
「恐らく・・・次の満月を迎えるまでに呪いを解かなければ・・・ミナム皇子の命は危ないです・・・私の魔術や今ある薬品を調合するだけでは解けることが出来ません。
各国にある『花』を集めなければならないのですが、我が国には、海を渡る術がありません。」
長年の間、他国とも交流を持たなかったルーナ王国には、船など持っていなかった。
ミニョ王女は、深い溜め息を吐いたが、マ執事が、ハッと思い出したように、指を鳴らした。
「ラッキーですよ!!ミニョ王女!!明日、劇場艇が来ます。それに、上手く乗り込めば!!」
ナイスアイデアだろと、ウインクをして胸を張るマ執事に、ワンが、思いっきり、マ執事を叩いた。
「もう、バカ言わないで!!誰が、やるの!アンタが乗り込むっていうの?」
「ワン様、マ執事、私に行かせてください!」
「「ミニョ王女!?」」
「一刻でも早く兄を助けたいのです。お願いです、私を行かせてください。」
「ミニョ王女、貴女様を、そんな危険な目には遭わせられません。貴女様に何かあったら、私は、先代の国王と王妃に死んで詫びるしか・・・。」
マ執事は、おいおい泣きながら、土下座をし、ミニョ王女の前で頭を下げる。
「マ執事・・・わかりました。他に案を考えましょう。」
顔をあげ、心底ホッとしたような顔をするマ執事に、ミニョ王女は微笑んでみせたが、決心を強く固めていた。
★★★★