番外編
『fate』if…

*9*

T side




ミニョを、もう一度失うのが、何よりも、怖い・・・。

その恐怖が、きっと、涙になったのだろう・・・。

考えたくもないが、ミニョがこの世から消えてしまうと言うのなら、俺は、息をすることさえも出来なくなるだろう・・・

他の誰よりも、俺が必要とする、かけがえのない存在・・・

どうしても、ミニョを失うわけには、いかない。
俺の生きる術だから・・・。

だから・・・

ミニョ・・・

生きてくれ・・・

俺のためにも・・・



ふと気がつくと、背中に廻ったミニョの手が、縋り付くように、ギュッと、力強く衣服を掴んでいた。
子どものように声をあげて泣くミニョが、何よりも、いとおしかった。

やっと、ミニョに思いが通じたようで、胸を撫で下ろした。

「大丈夫だ・・・
俺が、そばにいる・・・
何も、心配するな・・・」

ミニョを安心させるように、言葉をかけ続け、小刻みに震える頭と背中を撫で続けた。

お前がそばにいれば、俺は、どんなことでも乗り越えていける。

お前も、子どもも、俺が守ってやる。


それから、数日後の日曜日・・・

俺は、初めて、自分の娘に会うことになった。
待ち合わせ場所は、水族館。
ミニョの手に引かれながら、俺の前に現れるが、恥ずかしいのか、すぐに、ミニョの後ろに隠れてしまう。

「ほら、テファ。ちゃんと、ご挨拶して」

「こんにちは、コ・テファです。」

俺を見つめる円らな大きな瞳が、ミニョにそっくりだった。

「ママ、この男の人が、『パパ』になる人?」

父親だと名乗る前に、ミニョが、テファに、俺のことを話していたらしい・・・

無垢な娘の反応に、ミニョは、「すみません」と俺に頭を下げた。

「そうよ。ファン・テギョンさん。今日、テファと、一緒に遊んでくれるの。」

「ほんと?やった~!!ねぇ、行こうよ、ママ!!」

テファはニコニコ笑いながら、ミニョの手を引っ張った。

「色々とすみません、テギョンさん。」

ペコリと、頭を下げるミニョ。

「別に、気にしてない。」

すぐに関係を縮めるのは、難しいとは、思っていたから、さほど、気にしていなかった。

「ねぇ、ママ、見えない!!」

背伸びをしているテファ。どうやら、イルカがいる水槽の前では、人垣が出来て見えないらしい。
俺は、背伸びするテファの身体を抱き上げた。
やっぱり、子どもは軽いな。

「うわぁ~!!すご~い!!」

「見えたか、テファ?」

「うん!!見えた!!」

キャッキャッ喜んでいるテファに、ミニョも、ニッコリと、母親の顔で微笑んでいた。
ミニョの笑顔を見たのは、本当に久しぶりで、胸が熱くなった。

帰る頃には、すっかり、テファに懐かれていた。
ギュッと握られた小さな手が、いとおしく感じた。
別れるときも、手を離そうとしなかった。口をすぼめて、ヤダヤダ!!と駄々をこねて、ミニョを困らしていた。

ミニョが、入院するまでの間に、俺は、娘との距離を縮めていった。

ミニョが、入院する頃には、テファは、俺のことを、当たり前のように、「パパ」と呼んでいた。





★★★★