「今宵、月明かりの下で…」18

「恋焦がれて」





真っ暗な夜道を走り、息を切らしながら、テギョンは、『三日月館』に辿り着いた。

こんなに走ったのは、何時ぶりだろうか・・・?
妾(めかけ)を迎えた父上に反発し、屋敷を去っていった母の背中を追いかけた、あの幼い日だろうか・・・?

「母上・・・母上・・・」

泣きながら、幼い日のテギョンが、母親を追いかけている。
母親は、一度も、テギョンの方を振り返ることはなかった。

真っ暗な夜道

雲に隠れた月

ぼんやりとした月明かり

暗闇に消えていく、母の背中

昔の苦い思い出が重なり、テギョンは、辛そうに唇を噛み締めた。

暫く、テギョンは、その場で息を整えると、『三日月館』に入っていた。

「いらっしゃいませ」

いつものように、ユリが、テギョンを出迎える。

「ファン・テギョン様?」

「ミニョは?ミニョは、何処にいる?」

「お部屋で、休んでいらっしゃいます。でも、今は、行っても、無駄だと・・・」

「何故だ?」

「ミニョ様を心配したお客様方が、お見舞いにいらっしゃるのですが、ミニョ様、誰とも会おうとしないのです。たぶん、顔を見られたくないのかと・・・」

「そんなに・・・傷が酷いのか?」

「何度も殴られたせいで、顔が、真っ赤に腫れているんです。
お客様には、綺麗な顔でいなければ・・・この顔を見せれば、『妓生』の恥になると・・・。」

「邪魔するぞ」

驚くユリを余所に、テギョンは、口を尖らしながら、ドカドカと、妓楼の中に入っていった。
ミニョの部屋の前、一瞬、躊躇したが、引き戸を静かに引いた。
部屋は、静寂に包まれ、部屋の奥に、布団が敷かれているのが見えた。
いつも、花のような香りがする香を焚く匂いもしなかった。
テギョンは、足音を立てずに、そっと、部屋の奥へと歩いた。

布団の真ん中が、丸く盛り上がっている。

「ぅ・・・ヒック・・・グス・・・ぅ・・・・」

ミニョは、布団を頭から被り泣いていた
テギョンが、そっと、布団に手を置いた。

「っ・・・ユリ姉さん・・・?」

ユリだと勘違いしたミニョが、埋めていた枕から顔を離し、ゆっくり振り返った。

テギョンとミニョの顔が合い、涙で潤んだミニョの目が、驚きで見開いた。

「テギョン様・・・?どうして・・・?」

テギョンの顔を見て、顔を隠すのも忘れ、混乱しているミニョ。
テギョンは、ミニョの顔を見て、言葉を失っていた。

真っ赤に腫れ上がった頬や目蓋。
血が残る、痛々しい口元。

唇を噛み締め、まじまじと、ミニョの顔を見つめているテギョンに、ミニョは、やっと気付き、慌てて、布団で顔を隠そうとする。

「あっ・・・お願いです・・・どうか・・・顔を・・・見ないで・・・」

テギョンは、ミニョの肩を掴み、動きを制した。
ボロボロと涙を流すミニョの真っ赤に腫れ上がった頬を、そっと、手で包み込む。

「テギョン様・・・」

テギョンの真剣な眼差しで見つめられ、ミニョは、息を呑んだ。
テギョンに触れられた、真っ赤に腫れ上がった頬が、更に熱を持つのを感じる。
お互いの息遣いを感じる距離まで、顔が近付く。

「テギョン様・・・」

もう一度、ミニョが、テギョンの名前を囁いたとき、ふたりの唇が重なった。




★★★★


前回のハナシだけでは、ミニョが痛々しくて、可哀想だったので、本日は、2話分、更新です。

やっと、ここまで
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!って、
ホッとした感じです。

これから、暫くは、甘い感じになってくれれば・・・いいかなぁ。(〃∇〃)