「今宵、月明かりの下で…」12
「色気」
ウォルファはカヤグムを抱えると、テギョンの袖口を促すように引っ張った。
「行きましょう?」
ふたりは、雨の中、走り出す。
重そうにカヤグムを抱えて走るウォルファから、テギョンはカヤグムを奪うように取ると、また、走り始めた。
三日月館に着く頃には、ふたりともびしょ濡れになっていた。
「大変!ミニョ様、びしょ濡れじゃないですか・・・。」
ユリが驚いた顔で、二人を出迎えた。
「夕立が降ってきたものだから・・・」
「そうですか・・・すぐに、身体を拭く布と、こちらの方には、お着替えをご用意しますので、お部屋でよろしいですか?」
ユリは、急いで、準備をはじめる。
「お願い。テギョン様、どうぞ、こちらに。」
ミニョは、テギョンを部屋に誘う。
「ミニョ様、布とお着替えを用意いたしました。今、ジェルミに頼んで、温かい飲み物を用意していますから。」
「ありがとう、ユリ姉さん。」
ミニョは、ユリから受けとると、テギョンに布と着替えを渡した。
「どうぞ、こちらをお使いください。濡れた衣服を乾かしますから。」
ふたりは、薄い桃色の布で仕切られた場所で着替えをはじめる。
衣擦れの音が、やけに大きく響く。
先に着替えを済ませたテギョンが、ふと横を見ると、まだ、着替えをしているミニョの影が薄い布に映っていた。キーセン特有の黒くずっしりとした重い髪(花草盛り)を肩に下ろしていた。まだ、チョゴリを着ていないミニョのふっくらとした胸の形が、テギョンの目に映り、テギョンは、思わず、唾を呑み込んだ。
そして、目を泳がすと、慌てて、ミニョから視線を逸らした。
重い髪を下ろしたまま、チョゴリを着込んだミニョがテギョンの前に現れる。
花草盛りよりも、あどけなさを感じる。
「すみません、お客様の前で、こんな姿をして・・・。」
ミニョは、恥ずかしそうに俯いた。
「別に、構わない。」
首を横に振るテギョンも笠と髷を下ろし、長い黒髪が揺れていた。
髪を結い上げている時のテギョンは、両班らしく、年齢以上の威厳さを感じ、近づけないような雰囲気を持っていたが、髪を下ろしたテギョンは、年相応の若々しさが見えた。
“なんて、色気のある男性(ヒト)なんだろう・・・”
床を共にした後、男たちが全裸で寛ぐ姿は、ミニョは、何度も見たことがある。
その男たちの姿以上に、髪を無造作に下ろし、胸元が緩んだ衣服で寛ぐテギョンの姿に色気を感じ、ミニョは、初めて、男性に対して、胸が疼くのを感じた。
★★★★