「今宵、月明かりの下で…」*6*
「音楽」
「さすが、ウォルファ。気が利くな・・・」
シヌが感心した顔で、ウォルファを見つめる。
「私たちは、妓楼にいらっしゃった方は全て、お客と見なし、もてなしをさせていただきます。この方も、私にとっては、大事なお客様でございますわ。」
ウォルファが、ニッコリと微笑む。
「だそうだ、テギョン。暫しの間、俺と付き合え。この接待を拒否するのは、ここにいるウォルファを侮辱するのと、同じことだぞ」
シヌは、ひじ掛けに、ゆったりと身を預けると、扇子を広げ扇いだ。
「ウォルファ、酒を注いでくれるか?」
「はい、シヌ様」
ウォルファは、シヌの猪口に酒を注いだ。
「テギョン様も、どうぞ」
ウォルファは、テギョンに近付く。
近付いたウォルファの身体からは、ふんわりと花のような甘い匂いがする。
テギョンの猪口に酒を注ぐ姿は、色香を漂わせていた。伏し目がちに、しかし、微笑みを浮かべる口元は紅がひかれ、ぷっくりと柔らかな唇が誘っているように思えてくる。
テギョンは、ジロジロと、ウォルファを見つめていた。
顔を上げたウォルファと、目が合う。
目を逸らすテギョンに、ウォルファは、柔らかな笑みを浮かべた
「ウォルファ、久々に、お前のカヤグムが聴きたい」
「はい」
ウォルファは、部屋の奥から、カヤグムを持ち出し、ふたりの前に座ると、指で弦を弾いて、音を奏でる。
透明感のある美しい音色が、部屋中に響き渡る。
カヤグムの音と共に、透明感のある美しい高音の歌声。
シヌは、目を閉じ、耳を傾けている。
ウォルファの歌声を初めて聴いたテギョンは、背筋をしっかりと伸ばしたまま、注がれた酒を呑まずに、ただ、じっと見つめていた。
★★★★
参考用語
伽耶琴(カヤグム)

ご存知の方も多いと思います。
『オレスキ』でギュウォンが演奏していた楽器です。
『美男ですね』と言えば、『音楽』のイメージがあります。
ドラマで、テギョンが、ミニョの聖歌を聴いたときと同じように、テギョンが、ウォルファ(ミニョ)に対する印象が変わる瞬間です。
ふたりの話は、これから始まります。