「今宵、月明かりの下で…」*5*
「おもてなし」
「あぁ、テギョン。悪いんだけど、今、取り込み中なんだけど・・・用なら後にしてくれる?」
ウォルファの胸元に顔を埋めたまま、シヌは答えた。
眼光の強い眼差しで、テギョンは、平然と行為を続けようとするシヌを睨んだ。
テギョンは、シヌを睨んでいるはずなのに、ウォルファまで睨まれている気がして、気が引けてしまう。
「ねぇ、シヌ様?先に、こちらの若旦那様のお話を聞かれたらいかがですか?」
ひそひそと、シヌに話しかけるウォルファ。
「ウォルファ、大丈夫。アイツのことは気にしなくていい。アイツは、堅物で、いつも怒ってるから。」
「そうなんですか?でも、私には、優しい方に思えますが・・・?」
「アイツが、優しい?ねぇ、ウォルファ、俺がそばにいるのに、他の男のことを褒めるのかい?」
「ウフフ、シヌ様、それは、ヤキモチを妬いてくれているのですか?」
「そうだろ?こんなに良い男が目の前にいるのに、ウォルファは、テギョンを見ている。
・・・仕方ないな、先に、話を終わらせて、それから、存分に、ウォルファを味わうとしようかな・・・。」
テギョンは、ふたりが、自分を無視して、戯れているのを、口を尖らして見ていた。
「悪かったな、テギョン。で、何の用だい?」
全く悪気のないシヌの声。
ウォルファは、チョゴリを羽織ると、テギョンに頭を下げ、部屋を出た。
「シヌ・・・俺が、一体、いくつの妓楼を探し回ったと思う?ハン博士が、お前を探してるんだ・・・お前だけ、課題が出てないと、お怒りだ。」
「あぁ、確かに、今日、ハン博士の講義があったな・・・。今日は、帰らない方がいいかもな・・・」
テギョンが、呆れたように、溜め息を漏らす。
「・・・シヌ、お前は、成均館(ソンギュンガン)を卒業する気は、あるのか?」
「いつかは、するつもりさ。」
「卒業しても、お前の行く末は、閑良(ハルリャン(かんりょう)=官職に就かず、遊んでいる両班)だな。」
「確かに・・・」
声を出して笑うシヌ。
「テギョンも、本ばかり読んでないで、たまには、妓楼に来て、息抜きでもしろよ。楽しいぞ。それに、一度、女を抱いてみろ。女の身体の柔らかさや快楽は、本だけじゃ、わからないんだぞ。」
「・・・興味ない。穢らわしいだけだ。」
「お前だって、いつかは、お子を作るんだぞ。」
「そのときは、そのときだ。」
部屋を出ていたウォルファが、酒肴膳を用意してきていた。
「『三日月館』へ、ようこそお出でくださいました。私は、『月花(ウォルファ)』と申します。一度、お会いいたしましたよね?その節は、助けていただき、ありがとうございました。こちらは、ほんの御礼です。どうぞ、心ゆくまで、おくつろぎを・・・」
ウォルファは、床に手をつき、テギョンに頭を下げた。
シヌは、ウォルファの用意周到のもてなしに、ニヤリと笑った。
★★★★