「今宵、月明かりの下で…」*2*
「運命」
ウォルファは、ギュッと閉じていた目を開けると、そこには、両班の男が立っていた。
ザワザワと騒がしくなる人々。
「チッ…」
酔っぱらいの男は、舌打ちをすると、テギョンを睨み、ウォルファに唾を吐くと、逃げるように走り出した。
「・・・大丈夫か?」
テギョンは、ウォルファに背を向けたまま、ウォルファを見るどころか、地面に倒れてるウォルファに手を差し出そうともない。
先ほど、酔っぱらいに胸元を掴まれたせいで、ウォルファのチョゴリの合わせが乱れ、色白でふっくらとした胸元が露わになっていた為、だった。
ウォルファは、チョゴリを整えると、チマの土埃を叩きながら、立ち上がった。
「助けていただき、ありがとうございます。今度、御礼を・・・」
「私は、そういうモノに興味などない。逆に、嫌悪感を抱いているくらいだ。それに、私には、許嫁がいる。」
テギョンは、そのまま、背を向けた。
「そうですか・・・それなら、無理には、お誘い致しません。『三日月館』の『コ・ミニョ』と、申します。お近くにお立ち寄りの際は、是非・・・お待ちしております。」
ミニョは微笑むと、テギョンの背に深々と頭を下げると、踵を返した。
出逢うことのない、身分の違うふたり。
しかし、その出逢いによって、ふたりの運命は変わっていく。
ファン・テギョンは、成均館(ソンギュンガン)の儒生だった。
寄宿舎生活を送りながら、儒教に基づく政治理念を学んでいた。
興味があるのは、本ばかりで、様々な分野の本を読んでいた。
博学で、真面目、武芸にも長け、容姿も端麗。両班の娘では、知らぬ者がいないほど、有名な男だったが、プライドが高く、人付き合いが苦手で、付き合いがあるのが、同室生の『カン・シヌ』ひとりだった。
女遊びにも興味がなく、一度も、妓楼に足を運んだことがなければ、経験もない。
許嫁も、親同士が決めた女性だった。
だから、テギョンは、『三日月館』にも、一度も、足を運ぶことなく、ミニョ(ウォルファ)との出逢いも、あのときの、一度きりだと思っていた。
・・・が、その機会は、また、巡ってくることになる。
★★★★