「今宵、月明かりの下で…」*1*
「出逢い」
街の中、ひとりのキーセンが、伏し目がちに、荷物を抱え、足早に歩いている。
妓楼『三日月館』のキーセン、『月花』(ウォルファ)である。
この街の中でも、有名なキーセンのひとり。
色鮮やかなチマチョゴリを身に纏い、髪を盛った頭に女笠を被っている。女笠から垂れる薄布で顔は見えないが、花のような艶めかしい甘い香りを漂わせながら歩くその姿は、周りの男たちの目を奪う。
そんな美しいキーセンに目もくれず、向かい側から歩いてくる、ひとりの両班の男がいた。
冠(カッ)を被り、良質な布の衣を身につけている。
その男の顔立ちは、容姿端麗で、両班の娘たちの間では、『花男子』と呼ばれている有名な美青年のひとりだった。
「ねぇ、ファン・テギョン様よ。」
男を見つめながら溜め息を漏らしている娘たちの声にすら、ファン・テギョンは、反応することもなく歩いていた。
そんな中、テギョンの前をフラフラ歩いていた酒に酔った男が、通り過ぎようとするウォルファの腕を掴んだ。
「キャッ!?」
驚きで、小さな悲鳴をあげるウォルファ。
「お前、『三日月館』の月花(ウォルファ)だな。ふーん、いい香りのする女だ。金ならくれてやるから、俺の相手してくれよ。」
酔っぱらいは、ウォルファを後ろから羽交い締めにすると、ウォルファの首筋の匂いを嗅ぎ、チョゴリの胸元に手を入れようとしている。
「・・・イヤ、おやめくださいませ、旦那様。」
さすがに、キーセンと云えど、真っ昼間の街道で、公衆の面前で犯されたくはない。
「なんだよ!卑しい分際で、文句を言う気か!!」
酔っぱらいが、ウォルファを突き飛ばし、倒れたウォルファのチョゴリの胸元を掴み、手を挙げた。
“殴られる・・・”
そう思ったウォルファは、身体を硬くし、目を閉じた。
「いくら、卑しい者でも、相手は、女です。その仕打ちは、酷すぎませんか?」
ウォルファが、目を開けると、そこには、酔っぱらいの腕を掴む、ファン・テギョンの姿があった。
★★★★
参考用語
女笠

冠(カッ)

とりあえず、見切り発車で、レッツゴー!
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