美男2
~Another Story~
「幻影」
*60*
人々が行き交う街の中で、ミュージックビデオの撮影が行われていた。
周りは、テギョンを一目見ようと集まったファンや野次馬たちで溢れている。
テギョンが、ひとり、歩いていると、ひとりの女性とすれ違う。
ふわりと香る女性の残り香に、ふと、テギョンが立ち止まり、振り返る。
女性も立ち止まり、振り返り、ふたりが見つめ合う。
女性は感極まり、その場で、涙を流して泣いている。
テギョンは、微かに笑みを浮かべると、女性の方へと歩み寄り、抱き締める。
テギョンの肩に、顔を埋め、女性が、笑いながら、涙を流している。
再会を喜び、愛を伝え合うシーン。
『カット』の声が掛かり、テギョンが、女優からするりと腕をほどき、身体を離した。
テギョンは、口を尖らしながら、首を傾げる。
“また・・・アイツの姿・・・”
女優を抱き締めながら、テギョンが思い出していたのは、あの、ミュージックビデオのラストシーンで、寒そうに、身体を震わているミニョを、自分の胸に抱き寄せた、そのミニョの姿だった。
ミニョがいなくなってから、すでに、1カ月以上の月日が流れている。
それなのに、テギョンにとって、ミニョの存在は、消える処か、大きくなるばかりだった。
ふとした、何気ない瞬間に、ミニョが、幻影のように現れては、消える。
そのとき、ミニョは、いつも、自分のことを『ヒョンニム』と呼ぶ。
合宿所のリビングの椅子に座り、指同士を接着剤でつけていたときもあれば、車の中、嬉しそうに、リボン型のヘアピンを見つめるミニョ。
自分の部屋で、ブタウサギを抱き締め、喜んでいるミニョの姿。
また、あるときは、キッチンのカウンターで突っ伏して眠るミニョ。その頬には、涙が流れていた。
『・・・ミニョ、また、アフリカに、ボランティアに行くかもしれない。・・・・今度は、長いスパンで・・・』
何気なく聞いていたミナムとジェルミの会話に、テギョンは、なぜか、不安になった。
もう二度と、ミニョに会えなくなる・・・。
その不安が、テギョンの奥深くに眠る記憶を呼び覚ましていた。
★★★★