美男2
~Another Story~

「ブタ鼻」
*52*


「あれ~?ヒョン、行かないの?」

冷蔵庫の前で、未だ、ペットボトルを持ったまま、茫然と立っているテギョンに、声を掛けるジェルミ。

「行かないだろ。早くしないと、試写会、終わっちまうぞ」

ジェルミの肩を叩きながら、ミナムが答える。
ふたりが玄関に向かい、最後に、リビングにシヌが現れる。
シヌは、テギョンを一瞥すると、そのまま、玄関に向かおうとする。

「・・・おい、シヌ。お前の彼女は、コ・ミニョなのか?」

シヌの背中に、テギョンが問いかける。

「そうだと、言ったら?」

振り返りながら、ニヤリとからかうように笑うシヌに対し、テギョンは、口を尖らした。

「あの頃の・・・ミニョは、誰かを想い、その誰かに傷つけられて、いつも、泣いていた。ミニョの気持ちを知っていた俺は、その涙を止めるため、いつも、ミニョを慰めていた。
本当は、慰めること以外にもしてやりたいこともあったのに・・・
いつからか、ミニョが幸せそうに笑っていて、幸せなんだなと思って、諦めてたけど、残念ながら、長くは続かなかった。
また、思わぬところで、自分にチャンスが巡ってきたのに、結局、ダメだった。
ミニョの心には、やっぱり、そいつがいたから・・・
今も、ミニョは泣いている。いつまで泣けば、ミニョは、心から笑ってくれるんだろうな・・・」

シヌは、テギョンの顔色を伺うように、見ていた。

「シヌヒョン、行くよ!」

沈黙を破るように、ジェルミに急かされ、シヌが、玄関に向かう。
バタンと玄関が閉まる音。
車のエンジン音が遠ざかる。

合宿所には、テギョンひとり。
先ほどのシヌとの会話を反芻している。
コ・ミニョは、シヌの恋人ではなかった。
コ・ミニョは、シヌ以外の誰かを想っていた。
それは、一体、誰なんだ?

悲しそうな目で、鼻の先をギュッと押さえ、ブタ鼻をするミナムの顔。

また、一瞬だけ、甦る記憶。
ふざけてるのかと思うほど、ミナムは、テギョンの前でやっていた。

いつも、泣きそうな顔で、鼻が真っ赤になるくらいに、ギュッと押さえているミナム。

それは、マ室長が教えた『好きな人の前で気持ちが爆発しそうで抑えきれないとき』の秘密のツボ療法だった。



★★★★