美男2
~Another Story~

「キスしないで」


撮影場所は、野外で、前に、ヘイとグラビア撮影をした江原道(カンウォンド)にある美しい聖堂で行われていた。
冷たい秋風が吹いているが、空の真上にある太陽が暖かく感じる。
ミニョの格好も、白のニット帽に、ネイビーのピーコート、花柄のワンピース、黒のタイツ、茶色のブーツと、秋らしい装いをしている。

聖堂の前の道を借り、撮影がスタートする。
監督の指示で、動きを確認していく。

ミニョが甘えるように、テギョンの腕に、自分の腕を絡ませながら、道を歩く。目が合えば、お互い、微笑み合う。そして、照れたように、目を伏せるミニョの頭に、テギョンがキスを落とす。
また、見つめ合い、テギョンが、ミニョの頬に触れ、唇を近付けていく・・・
幸せそうなカップルのワンシーンを撮影していく。

さすが、テギョンは、プロだった。
監督のスタートの声ととも、テギョンの表情が変わる。
本当に、恋をしているかのような、柔らかな眼差しを、ミニョに向けている。
ミニョは、緊張しているのか、硬い表情のまま、躊躇ってしまったのか、テギョンの腕に、自分の腕を絡ませることが出来ず、テギョンの袖を掴んでいた。

「ちゃんと、腕を組めよ」

ミニョにだけ聞こえるような小さな声で、テギョンが怒る。

「・・・すみません」

ミニョが、すまなそうに口をすぼめながら、おずおずと、テギョンの腕に、自分の腕を絡ませた。
ふたりの身体が、ピッタリと寄り添うようにくっつく。
歩調がゆっくりのミニョに合わせ、テギョンが、歩調を揃える。

「ミニョssi、顔を上げて、テギョンssiを見上げて。テギョンssi、ミニョssiの顔を見つめて・・・ふたり、見つめ合う」

監督の指示通りに、顔を上げると、テギョンと目が合う。
ゴクっと、ミニョが息を呑む。
間近にあるテギョンの笑顔に驚いてしまい、何度も、瞬きを繰り返す。

「ミニョssi、笑って」

監督の指示で、ミニョが、何とか、はにかみながら笑う。
微笑みながら見つめ合う恋人が、カメラに収まる。

「そのまま、ミニョssi、恥ずかしそうに、目を伏せて・・・テギョンssi、ミニョssiの頭にキスをして・・・」

ミニョが、目を伏せると、テギョンが、ミニョの頭に、キスを落とす。

「カット!OK!」

カットと同時に、テギョンが、ミニョと絡ませていた腕を、するりと、腕を抜いた。

まだ、心臓がバクバク鳴っている。
テギョンの笑顔を見る度に、アフリカに行く前の、ほんの僅かの幸せだったときのことを思い出し、胸が、締め付けるように痛くなり、泣きそうになる。
テギョンの笑顔に、演技だとわかっていても、ときめいてしまう自分に、“バカだな・・・”と思いながらも、その胸のときめきを抑えることは、出来なかった。

とうとう、次のシーンが、キスシーンまで迫っていた。

立ち位置を決め、リハーサルをしていく。
テギョンの手が、ミニョの頬に触れ、顔を上げさせ、唇を近付けていく。
ミニョが驚いたように、目をギュッと瞑る。
そんなミニョを、テギョンが鼻で笑う。

「バカ、リハーサルで、キスなんかするわけないだろ?それに、角度によっては、別に、フリでも構わない。それとも、キスしたいのか?」

意地悪そうに聞くテギョンに、ミニョは、答えが出せずに困ってしまい、ミニョは、口をすぼめて、黙ってしまう。

・・・ただ、キスをしたら、泣きそうだった。
キスをしたら、色々と、また、思い出してしまい、きっと、感情が溢れてしまう。

幸せな恋人を演じないといけないシーンなのに・・・
そんなシーンで泣いてしまったら・・・ここにいる全員を困らせ、迷惑をかけてしまうことになる。

ミニョは、小さく首を振る。

「キスしなくていいです。キスをするフリでいいです。」

ミニョの答えに、テギョンが、驚いたように、目を見開く。

「お前、まさか、初めてなのか?」

「い、いいえ、あ、ありますけど・・・」

しどろもどろに答えるミニョ。
その答えに、面白くないと、テギョンが口を尖らす。

「相手は、誰なんだ?」

「テギョンさんには、関係ありません」

スッパリと言われてしまったテギョンが、尖らした口を、左右に動かす。

「わかった。フリでいいんだな?俺もラクでいい。出来るだけ、キスはしたくない。」

そう言ったテギョンの口は尖ったままだった。

本番を迎え、監督のスタートの声が掛かる。

テギョンが、ミニョの頬に触れ、唇を近付けていく。
ミニョは、意を決したように、息を潜め、ギュッと目と唇を閉じる。
鼻が触れ、テギョンの息が近くに感じる。

なかなか、カットの声が掛からない。

息が詰まり、ミニョが、小さく息を吐いた、そのとき、痺れを切らしたように、テギョンの唇が、ミニョの唇に触れた。





★★★★

サブタイトルに、毎度、悪戦苦闘中…(。>д<)
すみません、変なタイトルで…。
ミニョの揺れ動く、切ない気持ちは書いたので、次回は、なにを考えているのか、謎だらけのテギョンsideをお送りします。