「Secret moon」13

「渇望」


現在、テギョンは、ジェヒョンの元を離れ、郊外にある屋敷に、ひとり、住んでいた。
その屋敷は、かつて、テギョンが暮らしていた屋敷でもあった。
ミニョと一緒に暮らしはじめたが、テギョンは、ミニョと一緒にいることも、顔を合わせることも、ほとんど、しなかった。

ジェヒョンが、言っていたとおり、コ・ミニョは、目が眩むほどに、甘く、芳香な香りを纏っていた。それは、かつて、自分が愛していた“ミニョ”の生まれ変わり、つまり、“運命の相手”だと言うことを意味する。

近付けば、近付くほど、テギョンは、その香りに惑わされ、気が狂いそうになり、理性を失い、ミニョを襲ってしまいそうになるのを抑えるため、敢えて、ミニョを避けていた。

だが、どうしても、心は、ミニョを強く求めてしまう。

夜更けになると、テギョンが、行動をはじめる。
長い間、眠っていたせいか、テギョンは、夜は、ほとんど、寝ることがない。
ミニョが、寝静まったのを見計らい、足音なく、ミニョの部屋を訪れる。
すっかり、寝入ってしまっているミニョは、テギョンに気付くことはない。
テギョンは、ベッドに腰掛けると、ミニョの寝顔を見つめていたが、至近距離で感じる、ミニョの息遣いや香りに、テギョンが、ゴクンと、唾を飲み込む。
心臓の激しい鼓動を感じ、血が波打つように流れるのを感じる。
バンパイアの血が騒ぎ、渇望を感じ、ハアハアと荒い息を吐く。
抑えきれずに、衝動的に、ミニョの上に、馬乗りになる。
身体に重みを感じたミニョが、目を覚ます。
ミニョが目を見開き、驚きで、声をあげようとするミニョの口を、片手で塞ぐ。
もう片手で、ミニョの手を拘束をし、身動きを封じる。
ミニョの見開いた目から、恐怖で、涙が流れる。

「お・・・お願い・・です・・・やめて・・・お願いです・・・やめて・・・ください・・・。」

首を激しく横に振り、声を震わせながら、涙を流すミニョ。

『テギョン・・・お兄様・・・お願い・・・』

過去のミニョと、現在のミニョの声が重なる。
ハッとしたように、ミニョの泣き濡れた顔を見つめ、テギョンは、我に返り、すぐに、力を緩めた。

「お願い・・・やめて・・・・」

まだ、恐怖で、震えているミニョ。

「悪かった・・・ミニョ・・・大丈夫か?」

テギョンの労るような、優しい声に、
ミニョが、恐る恐るテギョンを見ると、今度は、驚きで、息を飲んだ。

月明かりに照らされた、テギョンの蒼白い顔と紅い瞳を、ミニョは、呆然と見つめていた。




★★★★