「Secret moon」8
「巡りあい」
静かな地下室に、足音が響く。
「お目覚めのようですね?」
ニッコリと笑うジェヒョン。
何十年の時が流れているはずなのに、ジェヒョンは、全く、容姿が変わっていなかった。
テギョンが、ジェヒョンの顔を見ながら、頭を傾げる。
「誰だ?俺と会ったことがあるのか?」
テギョンの記憶が、曖昧になっていた。
「えぇ、もちろん。ファン・テギョンさん、身体の具合は、いかがですか?」
「あぁ、大丈夫だ・・・」
テギョンは、ベッドから起き上がる。
ジェヒョンから、テギョンは、水が入ったグラスを受けとる。
グラスの水を飲み干すテギョン。
「シャワーを浴びたい」
「どうぞ、上にあります。」
ジェヒョンと共に、地下室を出ていく。
「オギャア・・・オギャア・・・」
上の部屋に上がると、赤ん坊の泣き声がした。
「赤ん坊がいるのか?」
リビングのテーブルの上に、籐の籠あり、テギョンがその中を覗くと、双子の赤ん坊がいた。
か弱く、今にも消えそうな小さな泣き声をしている赤ん坊。
「あんたの子どもか?」
「いいえ。この子達の母親に、託されたんですよ。」
「今にも、死んでしまいそうだな・・・」
「確かに、だいぶ、衰弱していますね。このままだと、死んでしまうでしょうね・・・でも、大丈夫。」
ジェヒョンが、双子のひとりを抱き上げる。
小指を、躊躇いもなく、ナイフで切ると、赤い鮮血が流れ落ち、赤ん坊の口に入っていく。
同じように、もうひとりを抱き上げ、赤ん坊の口に、血を落とす。
「おい!何を考えているんだ?」
テギョンが驚いた声をあげる。
「大丈夫ですよ。ほんの少しの血を与えただけです。バンパイアの血には、治癒力がある。それに、ほんの少しの血だけでは、バンパイアには、なれない。」
ジェヒョンの小指の切り傷は、すっかり、元通りになり、赤ん坊は、スヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
「バンパイア?」
「えぇ、あなたも、私と同じバンパイアですよ。ただ、あなたには、ヒトを治せる治癒力は備わってませんが・・・」
「俺が、バンパイア?」
「はい。あなたは、バンパイアになるため、50年ほどの間、長い眠りに就いてました。」
「50年もの間、寝ていた?」
ジェヒョンが、柔らかな笑顔を、赤ん坊に向ける。
「可愛いですね・・・男の子と女の子の双子だそうです。名前が、ミナムとミニョだそうですよ。
母親の名字を知らないので、私の名前を与えるとしましょう。この子達の名前は、コ・ミナムとコ・ミニョです。」
「・・・・・ミニョ?」
テギョンが、頭を抱えながら、その場に蹲る。
頭が割れるように痛く、呼吸も荒くなる。
「テギョンさん?大丈夫ですか?」
『テギョンお兄様・・・』
『ありがとう・・・お兄様、私を・・・愛してくれて・・・私は、幸せです・・・お兄様、ヘイ様と・・・・』
記憶の断片が集まり、ひとつになる。
「ミニョ・・・ミニョ・・・!!!」
テギョンは、涙を流し、赤ん坊のミニョを見つめていた。
★★★★