「Secret moon」3
*序章*
「罪と罰」
テギョンは、翌日、ヘイと結婚をした。
両親に逆らうことなど、その時代には出来なかったのだ。
結婚したあと、ヘイは、ファン家で暮らすことになった。
富裕層出身のヘイは、姑であるファランに、とても気に入られていた。
容姿も美しく、テギョンと隣に並んでいても、ふたりは、お似合いの夫婦だった。
ミニョはというと、益々、肩身の狭い暮らしをしていた。
ヘイも、テギョンが、ミニョを擁護することが、気に食わなかった。
ヘイは、テギョンがいない陰で、ミニョを苛め、罵っていた。
ミニョは、それを、誰にも言わず、ただ黙って、ひとり耐えていた。
そんなことがあり、ミニョは、神経衰弱になってしまい、人を寄せ付けなくなり、部屋から、一歩も出ることがなかった。食べ物が、喉を通らなくなってしまい、体力も衰弱していた。
見るからに痩せ細ってしまったミニョを、テギョンやギョンセは心配したが、ミニョは、「大丈夫です」と力なく笑うだけだった。
寒い冬の日、ミニョは、とうとう、この世から去ってしまう。
ひっそりと静かに、ミニョの葬儀を済ませた。
その葬儀で、邪魔者がいなくなったと笑うヘイとファラン。
その一方で、悲しみに暮れるテギョンとギョンセ。
その日の夜、ふたりは、酒を酌み交わしていた。
ギョンセは、テギョンに、ミニョの生い立ちを語りはじめる。
ミニョの両親は、ギョンセの旧知の友人であり、実は、富裕層の家庭の子どもだった。ミニョの両親は、人柄が良く、温厚で、評判だったが、信頼していた人物に、金を騙し盗られ逃げられてしまい、暮らしていた家に、火を放たれてしまった。
ふたりは、燃える火の中、娘だけを逃がし、火事に巻き込まれ、ふたりは命を落とした。
ギョンセは、そのことを、知り合いに聞き、ミニョを探し、養女として引き取ったのだった。
「ミニョは、この家に来て、幸せだったんだろうか?」
ギョンセも、ファランが、ミニョのことを嫌がっていたことは知っていた。それでも、ミニョをひとりだけにしたくはなかった。
何も出来ず失ってしまった友人のために、唯一、出来ることだと思ったが、自分のエゴだったのか・・・と、後悔していた。
テギョンは、結婚式の前夜のことを思いを馳せていた。
自分に抱かれながら、涙を流すミニョ。
「お願いだ、もう、泣くな、ミニョ・・・」
ミニョの涙に優しく口づけるテギョン。
「ごめんなさい・・・」
それでも、涙を止められず、ポロポロと涙の粒が零れ落ちる。
「・・・辛いのか?」
「大丈夫です・・・」
首を横に小さく振る。
「・・・嬉しくて・・・私の願いが・・・叶いました・・・」
「願い?」
ミニョが、はにかみながら、頷く。
「テギョンお兄様に・・・愛されることです・・・
ずっとずっと、お兄様のことを慕っていました。でも、その想いは、決して、赦されないことです。でも、想いは、強くなる一方で・・・この想いを止められませんでした。お兄様が、ヘイ様とご結婚すると聞いたとき、諦めようと決めました。
だけど・・・どうしても・・・出来なくて・・・ごめんなさい・・・お兄様・・・私は、ズルい人間なんです・・・お兄様に甘えて、独り占めしようとしてました。だけど、これで、終わりです。
ありがとう・・・お兄様・・・私を愛してくださって・・・私は、幸せです。
お兄様、ヘイ様と幸せになってくださいね・・・」
ミニョは、テギョンにしがみつくように抱きついた。
愛し合ったのは、それが、最初で最期だった。
それから、ミニョは、テギョンを避けていた。
同じ家に暮らしていても、顔を合わしても、目を合わそうとせず、顔を俯かせながら逃げていく。
テギョンは、いつも、そんなミニョに、不信に感じていた。
ミニョに理由を聞こうと、ミニョの部屋を尋ねても、扉は固く閉ざしたまま、開くことはなかった。
やっと、入れたとき、目にしたのは、変わり果てたミニョの姿だった。
病院に行くことを拒み、「大丈夫」だと言う一点張り。
痩せ細っていく姿を見ているしか、出来なかった。
これが、ミニョの言った、「罰」なのか?
ミニョひとりで、「罪」を背負ったのか?
無念と後悔だけが押し寄せ、テギョンは、唇を噛みしめていた。
★★★★