「美男2」

「ニオイ」

*41*


「はぁぁぁ……明日、面倒くさいな」

テギョンが、社長室から出ると、首をコキコキ鳴らしながら、ミニョが待っている練習室に、足早に戻った。

「…悪い、待たせたな」

そう言いながら、練習室のドアを開けるが、ソファーに座っているミニョからの反応はなかった。

「おい!!」

テギョンが、少し、ムッとしながら声を掛け、ミニョの顔を見た途端、それは、小さなため息に変わった。

「……」

ミニョは、ソファーの背にもたれ掛かって、うたた寝をしていた。
気持ち良さそうに、ユラユラと身体を揺らし、今にも、その身体は、ソファーに倒れそうな勢いだった。
あまりにも気持ち良さそうに寝ているから、起こすのも躊躇ってしまい、テギョンは、仕方なく、ミニョの隣に座ると、揺れていたミニョの頭が、コテンと、テギョンの肩に寄り掛かる。テギョンが、横目で、ミニョを見る。

栗色の柔らかそうな髪、カールした長い睫毛、柔らかな白い頬、プクッとしたピンク色の唇。

見つめていると、自然と、手が出て、触れたくなってしまう。
……どんなに、「美人」だと言われる女優と一緒になっても、そんな気なんて、1ミクロンも起こらなかった。(それは、今も、変わらないが…。)
……オレが、唯一、そう思えるのは、コイツだけなんだ。"

まだ、テギョンの鼻には、ガインの香水のニオイが残っていた。衣服にも、移り香があり、ニオイを嗅ぐだけで、明日のことを考えてしまい、頭が割れそうに痛かった。

"はぁぁぁ……"

疲れたように、テギョンが、ミニョの髪に、顔を埋める。
フワッと香る、甘く、優しい香りが、鼻をくすぐる。香水を使わないミニョ、それでも、時折、甘く、優しい香りが、テギョンの鼻を掠める。
ミニョの匂いは、テギョンを落ち着かせ、眉間に寄っていた皺もなくなり、柔らかな表情に変わる。

「ん………」

ミニョが、目を擦りながら、目を覚ます。

「あっ……テギョンさん。戻ってきてたんですね。すみません……気付かなくて……」

ミニョが、慌てて、テギョンに、寄り掛かっていた身体を離そうとする。
もう少しだけ、ミニョのぬくもりと匂いを感じていたくて、テギョンは、ミニョの頭を引き寄せると、自分の胸に抱き寄せた。

「もう少し…このままで…」

ふと、ミニョの鼻を掠める、テギョンの衣服に残る、ガインの香水のニオイ。

"あれ…?"

急に、チクッと針を刺したように、ミニョの胸が痛む。
ミニョの顔が、不安そうに歪んだことを、そのとき、ミニョの顔が見えないテギョンが、知る由は、なかった。



★☆★★

ニオイには、ふたつあります。漢字で書くと、「匂い」と「臭い」
テギョンにとって、ミニョは「匂い」、ガインは「臭い」。
私もニオイには、かなり敏感で…テギョンさんの気持ちは、よく、わかります(笑)
( ̄▽ ̄;)