「美男2」

「hero」

*36*


聖堂の庭園には、木や花や植物が植えられており、石像が並んでいた。
庭園の中を歩いていると、聖堂の鐘の音が聞こえて、ミニョが、足を止め、テギョンの方を振り返った。

「この時間だと、今から、お祈りの時間ですね。きっと、礼拝堂に院長さまがいると思います」

テギョンの姿に、思わず、ミニョが、見惚れてしまう。
ミニョから、少し離れて歩くテギョンは、変装のため、サングラスをかけ、パンツのポケットに手を入れたまま歩いていたが、やっぱり、何処にいても、彼がそこにいるだけで、絵になってしまう。
見慣れた風景が、テギョンがいることで、ミニョの目には、全く違ったものに見えてしまっていた。
ずっと、目を見開いたまま、立ち止まってしまっているミニョ。
テギョンが、ミニョを見て、首を傾げる。

「おい、大丈夫か?」

「あ、あ、すみません。こっちです。」

突然、テギョンに声を掛けられ、目をパチパチさせながらビックリしているミニョが、慌てて、礼拝堂の方を指差した。

「……やっぱり、変だ」

なんとなく、ギクシャクしながら歩いているミニョに、テギョンが、「わからない」とでも言うように、口を尖らせていた。

礼拝堂の重厚な扉を開けると、お祈りの真っ最中だった。
静寂の中、両手を組み、神に、祈りを捧げる人々。
ふたりは、後ろの席に、静かに着席した。
厳かな雰囲気と、誰も、「ファン・テギョン」に気付くことがなかったので、テギョンは、かけていたサングラスを外す。
ミニョは、両手を組むと、下を向いて、目を閉じ、祈りを捧げた。
お祈りの時間が終わり、ミニョは、席から立ち上がり、祭壇の前にいる院長さまの元に行く。

「院長さま!!」

「ジェンマ!!」

ミニョが、院長さまに抱きついた。
そんなミニョを、優しく抱き締める院長さま。

「おかえりなさい、ジェンマ」

ミニョの目には、ポロポロと涙が流れ落ちている。
院長さまは、まるで、幼子をあやすように、ミニョの背中をトントンと優しく叩いた。
院長さまは、ふと、視線をあげると、テギョンの姿を見つけ、会釈をした。
テギョンも、お辞儀をする。

「さぁ、ジェンマ、私のお部屋で、ゆっくりとお話を聞かせてください。」

ミニョの背中に手を回し、涙で濡れたミニョの頬を、優しく撫でた。

「あなたも、一緒に。」

院長さまは、テギョンに向かって、ニッコリと微笑み、院長室に向かった。

「さぁ、お茶をどうぞ」

院長さまは、ふたりに、お茶を出す。

「ありがとうございます。」

「ジェンマ、あなたのお星様を紹介していただけませんか?」

院長さまが、テギョンを見ると、テギョンが、立ち上がり、頭を下げた。

「ファン・テギョンです。ミニョさんと、お付き合いさせていただいています。挨拶とご報告が、遅くなってすみません。」

「いいえ。貴方に出会えたことにより、あんなに小さかったミニョが、いまや、恋をして、胸を痛め、喜びを知りながら、少しずつ、大人になっていく姿を見れることが出来ることに、私は、貴方に、心から、感謝していますよ」

院長さまは、嬉しそうに、目を細め、テギョンとミニョを見つめていた。

「ところで、ミナムは、元気にしていますか?」

「お兄ちゃんは、来ていないんですか?」

「えぇ。忙しいみたいで。でも、施設に、毎月、寄付をしてくれているのですよ。一度、断ったことがあったけど、「ココは、オレの家みたいなもんだから。ココに住んでいる子どもたちが、他の家庭と変わりなく、不自由なく暮らしてほしいし、好きなもんや欲しいもんだってあるハズだから」と、そう言って、毎月、欠かさずに送ってくれてるのですよ。」

思ってもいないような話に、テギョンが、驚いたように、目を見開いている。

"あの、ふざけたアイツが……そんなことを…?"

「……知らなかったです。でも、ヒーローみたいで、カッコイイです、お兄ちゃん。」

ミニョが、親指を立てて、喜んでいる。

院長さまは、ふと、窓から見える、施設の庭に目をやった。

「あの子たちも、ミニョやミナムのように、逞しく、強く、そして、弱き者には、手を差し伸べられる、優しい人に、なってほしいと、願っています」

院長さまが、胸の前に、十字を切った。

「さぁ、長居をさせてしまいましたね。テギョンさん、ミナムとミニョのこと、よろしくお願いしますね」

「はい」

「ジェンマ、また、遊びにいらっしゃい。」

「ありがとうございます。」

ミニョは、院長さまに抱きつき、お別れをする。
テギョンが頭を下げ、ふたりは、院長室をあとにした。



★☆☆★

実は、「あしながおじさん」だったミナム。隠れたところで、カッコイイことしてそうなイメージがあって…。