「美男2」

「片づけた恋」

*31*


明け方、ドラマ撮影が終わり、仮眠をとるため、合宿所に帰ってきたシヌ。
連日連夜続く、過酷なドラマのスケジュールに、疲れの色が隠せないでいる。
寝る前に、お茶を飲もうと、キッチンに向かい、お湯を沸かす。
ふと、リビングを見ると、ソファーとその下に、暗闇に浮かぶ、ふたつのブランケットの山。ふたつとも、頭まで、ブランケットを被ってしまっているため、顔が見えないでいる。

「いつもは、ひとつなのに…ジェルミなのか?」

シヌのいう、"ひとつ"とは、ミナムのこと。未だに、ミナムは、自分の部屋が散らかっているせいで、自分の部屋で寝ることが出来ず、リビングのソファーを寝床にしていた。
リビングのテーブルには、シャンパンやワインの空きビン、食べ終わったままのお皿があった。

「はぁ……全く。お前ら、ちゃんと、食べたモノくらい、片付けてくれよな…」

シヌは、腰に手を置き、ぐっすりと寝てしまっているふたりを見下ろし、リビングに散乱したゴミを片付ける。
ソファーで寝ていたのが、モゾモゾと寝返りをうち、ブランケットから顔を出す。
ハラリと頬に落ちる長い髪、ミナムとそっくりの顔。
その顔を、驚いたように、まじまじと見てしまうシヌ。

「ミニョ…なのか?」

シヌがミニョを起こさないように、そっと、指で、ミニョの頬にかかった髪を払う。

閉じられた長い睫毛、ふっくらした白い頬、ぷっくりとした唇。

シヌの目の前には、本人に、恋心を気付かれることなく、告白した頃には、もう、手遅れになってしまった……そんな、切ない片想いの相手がいた。

ヤカンのお湯が沸く音に気付き、シヌは、切なそうに目を伏せ、触れていた手を離した。

「もう、キレイに片付けたハズなんだけどな……」

まだ、少しだけ、チクッと胸が痛むことに、苦笑いしながら、ハーブティーを淹れたカップを持ち、シヌは、自分の部屋に戻った。


それから、一時間後、ミニョが目を覚ます。

「このまま、寝ちゃったのね…」

アルコールを飲んだあと、また、疲れが出てきて、眠くなってしまい、そのまま、倒れるように寝てしまった。
アルコールを、そんなに飲んでいなかったため、頭痛もなく、起き上がると、その下で寝ているミナムを起こさないよう、静かに、キッチンに向かった。
昨夜はなかった、シヌが愛用しているティーポットが置いてあることに、気付くミニョ。

「あれ?シヌヒョン、帰ってきたんだ」

朝ごはんを作ろうと考えたミニョは、冷蔵庫の中を見ると、材料を取り出し、準備に取りかかった。



★★★☆