短編
「言葉のプレゼント」
11月22日
今日は、誕生日。
施設で、暮らしていたとき、誕生日の朝、起きると、お兄ちゃんと「おめでとう」を言い合った。
「お兄ちゃん、おめでとう」
「ミニョ、おめでとう」
でも、誕生日なんてないものだった。
普通の家庭みたいに、バースデープレゼントも、ごちそうも、バースデーケーキもない。
なんもない、ただの普通の日だった。
そして、眠りにつくため、ベッドに入ると、院長先生が、「おやすみ」の挨拶をするために、部屋を回ってくる。
そして、私たちの部屋に入ってくる。
院長先生は、いつも、マリア様のような、本当に優しい微笑みを、私たちに、向けてくれる。
「おやすみ」を言う前に、私たちを、両腕で包み込むように、抱き締めてくれた。
「今日は、あなたたちが生まれた、とても大切な日よ。生まれてきてくれて、ありがとう。」
そう言って、私たちの背中を、優しく、トントンと叩いてくれる。
院長先生がくれる温かな愛で、胸がいっぱいになる。
それは、まるで、院長先生がくれる、特別な誕生日プレゼントみたいだった。
そして、年月が経って、自分の誕生日に泣いているヒトがいた。
そのヒトは、まるで、キラキラ輝くお星さまのようなヒト。
そのヒトが、誕生日に、自分を産んでくれたお母さんに再び捨てられてしまった…。
元気のない顔が、とても寂しそうに見えたから、元気づけるために、院長先生が誕生日にしてくれたことを、そのヒトに、やってあげたことが、あった。
それから、毎年、そのヒトの誕生日になると、たくさんの愛を込めて、そのヒトに贈ってあげる。
そして、今、院長先生がしてくれることは、なくなってしまったけど…。
それでも、相変わらず、誕生日になると、お兄ちゃんに、必ず「おめでとう」の電話をする。
そして、もう少しで、新しい日付になる前に、優しく抱き締めてくれるヒトがいる。
「残り5分だな」
そう言って、私を、人差し指を曲げながら呼ぶと、ギュッと抱き締めてくれ、耳元で、優しい声で囁いてくれる。
「今日は、お前の生まれた大切な日だ。生まれてきてくれて、ありがとう。」
院長先生がくれた言葉のプレゼントを、今は、この世で、一番、愛しているヒトから貰い、そのヒトの優しい腕の中で、嬉し涙を溢す。
"生まれてきて、本当に良かった。"
本当に、心から、そう思う。
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