「fate」
*50*
「約束」
歳月が流れても、ミニョと別れた、あのときを思うと、胸が痛み、残された傷痕が塞がることも、癒されることもなかった。
ミニョが「結婚した」という現実を知っても、諦めきれなかった。
もう一生、会えなくても、結ばれることがなくても…
オレには、ミニョしか、いなかった。
ミニョしか、愛せなかった…。
今生では、もう二度と結ばれることはない相手だけを思い、諦めきれない未練だけが、ずっと残ったまま、引きずるように、ずっと、生きていた。
オレは、結婚はしなかった。
いくら、跡継ぎの為に、結婚を薦められても、ミニョ以外の相手とするなんて、無意味だったから。
オレ以降の跡継ぎを無くしたファン家は、イギリスのレコード会社と提携を結んだ。
会社を経営するのは、父と古くからの知り合いのイギリス人。妻は、韓国人。オレより年下の息子がいるが、そいつが、かなりの変わり者だった。
すでに、結婚していて、子どももいる。が、どう見ても、容姿は、金髪で、チャラチャラしてる格好の息子に、ふたつの会社を任せてもいいのか、時々、大いに不安になるときがある。
ある日、仕事の打ち合わせを終え、雨が降る中、歩いていた。
あのホテルの近くを歩いていたため、久々に、酒を飲みたくなり、立ち寄ることにした。
ミニョがいないと知っていても、つい、足が動いてしまう。
ホテルに入り、そのまま、薄暗いバーの中に入る。
小さなステージに、ピンスポットが当たり、ステージに立つ歌手を照らしている。
歌手の顔を見た途端、驚きで、声を失ってしまった。
……その顔は、ミニョに、そっくりだった。
だが、他人のそら似にしては似すぎる。
それに、ミニョにしては、若すぎた。
その歌手が、歌いはじめる。
歌手が歌っている曲と歌声に、耳を疑ってしまう。
歌手が歌っている『どうしよう』は、オレが作った曲だったから…。
ミニョと別れた、あの日、喪失感の中、胸の内を吐き出すように、夢中で作った曲だった。
出来上がったその曲は、男ではなく、女の歌手に歌わせると、その曲は、ヒットした。
歌手の歌声まで、ミニョに、そっくりだった。
目の前の歌手が、ミニョでしか見えなくなってしまう。
ミニョじゃないと、わかっているのに……。
歌が終わり、一歩、一歩、ステージに近づいた。
足が、勝手に動き出してしまう。
「……ミニョ?」
気づいたら、そう呼んでいた。
「ミニョは、私の母の名前です。…私は、娘です」
「娘…?」
思ってもいない言葉に、驚いてしまう。
…子どもがいたんだな。
そして、次の言葉に、衝撃を受けてしまう。
「母は、3年前に他界したんです。」
…3年前…死んだ…?
…嘘だろ?
…ミニョが、この世に、いないなんて……
…ミニョ
……ミニョ
………ミニョ
……っ
身体が、高熱に浮かされたように、震えが止まらない。全身の力が抜けてしまったように、立っていられず、その場に、崩れ落ちる。涙がこらえきれず、流れ落ちる。
歯を喰いしばっても、声が漏れてしまう。
心臓をもぎ取られたように、胸が、苦しいほどに痛い。
「私の名前は、コ・テファです。母は、ひとりで、私を育ててくれました」
ひとり…?
「結婚した、と聞いたが…?」
「いえ、母は、一度もしていません。未婚のままです」
「全部…嘘…だったのか…?」
「嘘…?」
「10年ほど前に、会ったんだ。結婚した、と言っていた。だから……」
「たぶん、そのときは、もう、母は、病気でした。母は、きっと、貴方を苦しめたくなかったんだと思います。"あのヒトを、苦しめたくない"と、母は、最期まで、言ったんです。私にも、ある約束をして…」
病気なら、なんで、言わなかったんだ…ミニョ?
どうして、あのとき、本当のことを告げずに、すがらなかった…?
「もし、アナタのお父さんだと思うヒトに出会っても、親子だと名乗ってはいけない、と…。」
アナタの"お父さん"…?
まさか、テファは、オレの娘なのか…?
「貴方が、父親かどうかは、定かでは、ありません。母は、名前も教えてはくれなかったですから…。でも…なんとなくですけど……そんな気がします。もし、気を悪くさせたのなら、すみません…。でも、母が、生涯で愛したヒトは、この世で、ただひとりしかいません。母が、そのヒトを思い出しながら、話すときの顔は、とても、幸せそうでした。」
……ミニョ
お前は、ずっと、ひとりで、娘を守ってきたんだな…?
でも、どうして、あのとき、言わなかった……?
オレが、拒否するとでも思ったのか?
フッ、オレも、随分、見くびられたもんだな…。
オレは、お前を、失いたくなかった。
例え、そばにいれなくても、お前が、どこかで、幸せに生きていれば、それでも、いいと考えていた。
でも、真実を知った、今、オレは、どうすれば、いいんだ…?
お前を喪ってしまい、生きる気力さえ、なくしてしまいそうだ…。
ふと、手に、優しく触れるように、手を握られる
。ミニョのような、その仕草に、思わず、手を握り返す。
そうだな、ミニョ
お前が、遺した大事な宝物は、ココで、生きている。
お前がいなくても、きっと、何処かに、ミニョを感じられる気がするから…。
その宝物を、今度は、オレが、引き継いで、見守っていく。心配しなくていい。約束してやる。
だから…
オレは、あの世があると、信じてない。
だけど、オレが、この世の人生を終え、あの世に逝ったとき、今度こそ、離れずに、オレのそばにいてくれることを、約束してくれ。
……いや、その前に、今度は、絶対に、お前を離してやるつもりはないからな。
覚悟しておけよ。
わかったな…?
★☆☆★
エピローグは、その後のハナシを…。ちょっと、浮世離れしてますけど、気になさらずに…お願いします。
後書きは、長くなりそうなので、つぶやきで書きますので、すみません。
*50*
「約束」
歳月が流れても、ミニョと別れた、あのときを思うと、胸が痛み、残された傷痕が塞がることも、癒されることもなかった。
ミニョが「結婚した」という現実を知っても、諦めきれなかった。
もう一生、会えなくても、結ばれることがなくても…
オレには、ミニョしか、いなかった。
ミニョしか、愛せなかった…。
今生では、もう二度と結ばれることはない相手だけを思い、諦めきれない未練だけが、ずっと残ったまま、引きずるように、ずっと、生きていた。
オレは、結婚はしなかった。
いくら、跡継ぎの為に、結婚を薦められても、ミニョ以外の相手とするなんて、無意味だったから。
オレ以降の跡継ぎを無くしたファン家は、イギリスのレコード会社と提携を結んだ。
会社を経営するのは、父と古くからの知り合いのイギリス人。妻は、韓国人。オレより年下の息子がいるが、そいつが、かなりの変わり者だった。
すでに、結婚していて、子どももいる。が、どう見ても、容姿は、金髪で、チャラチャラしてる格好の息子に、ふたつの会社を任せてもいいのか、時々、大いに不安になるときがある。
ある日、仕事の打ち合わせを終え、雨が降る中、歩いていた。
あのホテルの近くを歩いていたため、久々に、酒を飲みたくなり、立ち寄ることにした。
ミニョがいないと知っていても、つい、足が動いてしまう。
ホテルに入り、そのまま、薄暗いバーの中に入る。
小さなステージに、ピンスポットが当たり、ステージに立つ歌手を照らしている。
歌手の顔を見た途端、驚きで、声を失ってしまった。
……その顔は、ミニョに、そっくりだった。
だが、他人のそら似にしては似すぎる。
それに、ミニョにしては、若すぎた。
その歌手が、歌いはじめる。
歌手が歌っている曲と歌声に、耳を疑ってしまう。
歌手が歌っている『どうしよう』は、オレが作った曲だったから…。
ミニョと別れた、あの日、喪失感の中、胸の内を吐き出すように、夢中で作った曲だった。
出来上がったその曲は、男ではなく、女の歌手に歌わせると、その曲は、ヒットした。
歌手の歌声まで、ミニョに、そっくりだった。
目の前の歌手が、ミニョでしか見えなくなってしまう。
ミニョじゃないと、わかっているのに……。
歌が終わり、一歩、一歩、ステージに近づいた。
足が、勝手に動き出してしまう。
「……ミニョ?」
気づいたら、そう呼んでいた。
「ミニョは、私の母の名前です。…私は、娘です」
「娘…?」
思ってもいない言葉に、驚いてしまう。
…子どもがいたんだな。
そして、次の言葉に、衝撃を受けてしまう。
「母は、3年前に他界したんです。」
…3年前…死んだ…?
…嘘だろ?
…ミニョが、この世に、いないなんて……
…ミニョ
……ミニョ
………ミニョ
……っ
身体が、高熱に浮かされたように、震えが止まらない。全身の力が抜けてしまったように、立っていられず、その場に、崩れ落ちる。涙がこらえきれず、流れ落ちる。
歯を喰いしばっても、声が漏れてしまう。
心臓をもぎ取られたように、胸が、苦しいほどに痛い。
「私の名前は、コ・テファです。母は、ひとりで、私を育ててくれました」
ひとり…?
「結婚した、と聞いたが…?」
「いえ、母は、一度もしていません。未婚のままです」
「全部…嘘…だったのか…?」
「嘘…?」
「10年ほど前に、会ったんだ。結婚した、と言っていた。だから……」
「たぶん、そのときは、もう、母は、病気でした。母は、きっと、貴方を苦しめたくなかったんだと思います。"あのヒトを、苦しめたくない"と、母は、最期まで、言ったんです。私にも、ある約束をして…」
病気なら、なんで、言わなかったんだ…ミニョ?
どうして、あのとき、本当のことを告げずに、すがらなかった…?
「もし、アナタのお父さんだと思うヒトに出会っても、親子だと名乗ってはいけない、と…。」
アナタの"お父さん"…?
まさか、テファは、オレの娘なのか…?
「貴方が、父親かどうかは、定かでは、ありません。母は、名前も教えてはくれなかったですから…。でも…なんとなくですけど……そんな気がします。もし、気を悪くさせたのなら、すみません…。でも、母が、生涯で愛したヒトは、この世で、ただひとりしかいません。母が、そのヒトを思い出しながら、話すときの顔は、とても、幸せそうでした。」
……ミニョ
お前は、ずっと、ひとりで、娘を守ってきたんだな…?
でも、どうして、あのとき、言わなかった……?
オレが、拒否するとでも思ったのか?
フッ、オレも、随分、見くびられたもんだな…。
オレは、お前を、失いたくなかった。
例え、そばにいれなくても、お前が、どこかで、幸せに生きていれば、それでも、いいと考えていた。
でも、真実を知った、今、オレは、どうすれば、いいんだ…?
お前を喪ってしまい、生きる気力さえ、なくしてしまいそうだ…。
ふと、手に、優しく触れるように、手を握られる
。ミニョのような、その仕草に、思わず、手を握り返す。
そうだな、ミニョ
お前が、遺した大事な宝物は、ココで、生きている。
お前がいなくても、きっと、何処かに、ミニョを感じられる気がするから…。
その宝物を、今度は、オレが、引き継いで、見守っていく。心配しなくていい。約束してやる。
だから…
オレは、あの世があると、信じてない。
だけど、オレが、この世の人生を終え、あの世に逝ったとき、今度こそ、離れずに、オレのそばにいてくれることを、約束してくれ。
……いや、その前に、今度は、絶対に、お前を離してやるつもりはないからな。
覚悟しておけよ。
わかったな…?
★☆☆★
エピローグは、その後のハナシを…。ちょっと、浮世離れしてますけど、気になさらずに…お願いします。
後書きは、長くなりそうなので、つぶやきで書きますので、すみません。