「fate」

*48*

「終焉」


その日は、今年一番の寒さを記録した冬の日だった。

入院を余儀なくされた母は、今、病室のベッドで、昏昏と眠り続ける。

ピッ…ピッ…ピッ…

一体、今日で、何日目なんだろうか…。
規則正しい、機械の音を、ずっと、聞いている気がする。
もう、温もりや柔らかささえ失ってしまった母の細く冷たい手を、私は、ずっと、握りしめていた。

「お母さん…」

私の呼びかけにも、もう、ほとんど、反応することはなかった。
意識を失う数日前、母は、私の手を握りしめ、こう言った。

「お願い、テファ、約束して。もし、誰かに、あなたのお父さんについて教えてもらっても、いつか、あなたが、お父さんに会うことが出来たとしても、親子だと、名乗ってはいけないわ。それは、残酷なことかもしれない。でも、私たち、母子(おやこ)のことで、あのヒトを苦しめたくないの。あなたには、本当に、不自由な、思いばかりさせて、悪いと思ってる。本当に、ごめんね、何も、残してあげられなくて…。でも、これだけは、わかって…。あなたを愛してるわ。あなたのそばには、いられないけど、これからも、あなたが、幸せと共に生きられるように、ずーっと、見守っているから、ね」

これが、今となれば、母の"最期"のコトバなのかもしれない。

若くして、私を産み、女手ひとつで、私を育ててくれた母。
きっと、私が思っている以上の、苦労をしてきたんだと思う。
眠り続けている母の顔は、色々な苦しみから、やっと解放され、今は、とても安らかな寝顔で、眠っているようにも、見えた。

…だから
もう、いいよ。
私は、ひとりでも、大丈夫だから…。
ゆっくり、眠って…

母の頬に、そっと触れる。

お母さん。
ありがとう、いっぱい愛してくれて…。
私も、愛してる。
ずっと、ずっと…。

母が、一瞬だけ、微笑んだように見えた。

ピ―――――

次の瞬間、規則正しく鳴っていた音は、一定の音しか鳴らなくなっていた。

そう、母は、天国に旅立ったのだ。



★☆★☆

ミニョの物語は、ココまでですが、まだ、もうちょっとだけ、ハナシは続きます。
テギョンのハナシとテファのハナシを……。
予定としては、50話完結。
もう少し、お付き合いくださいませ。