「fate」

*40*

「alone」


臨月を迎えた。
いつでも、病院に行けるように、準備はしていた。

…ひとりで産む

不安は、抱えきれないほどある。
先のことを考えれば、尚更だった。
それでも、覚悟を決め、今が、ある。
だから、後悔は、しない。
泣き言も、言わない。
このコのために、強くなる。
そう、心の中で、何度も、誓った。

その日は、いつも以上に、お腹の張りを感じていた。

もしかしたら…

不安を感じ、荷物を持ち、タクシーを拾うため、大通りに出る。

そのとき、タラリ…と腿を伝い、流れ落ちるのを感じる。

……破水したのだ。

タクシーに乗り込み、行き先を告げる。
タクシーの中で、陣痛が始まってしまう。

「お客さん、大丈夫…?」

運転手さんが、バックミラーから、チラチラと、丸眼鏡をかけた、小さな目が、心配そうに、私を見ている。

私は、額に、玉のような汗をかきながら、痛みに耐えていた。

「だ、大丈夫…です。すみません」

病院に着くと、運転手さんが、手伝ってくれた。

「すみません…ご迷惑をかけて…」

「大丈夫、大丈夫。これも、仕事のうち。頑張って、産むんだよ!!」

そう言って、運転手さんは、また、車へと、戻っていった。

それから、私は、ただ、ひたすら、痛みに耐えていた。
厚いカーテンを隔てた向こうにも、人がいるようで…。
痛みを耐えるような、荒い息遣いが、聞こえる。

「大丈夫か…?」

優しい旦那さんの声。

きっと、旦那さんは、奥さんの手を優しく握りながら、時に、背中を擦りながら、奥さんを励ましているのだろう……。

私には、手を握って、背中を擦ってくれるヒトは、いない……。

…テギョンさん

こんなときでも、思うのは、ただ、ひとりだった。

あの婚約会見のときから、テレビや雑誌を、見ていない。
怖くて、見れないのだ…。
あの女性(ヒト)の笑顔を見るたびに、自分が、"孤独"だという現実を突きつけられるような気がして……。
それでも、テギョンさんの幸せを考えると、きっと、あの女性と共に、笑って、生きている…そう、信じていた。

もう、現実を見なくても、十分、わかっている。

私が、選んだ道は、孤独だから…。
幸せは、もう望んでいない。

痛みなのか、それとも、悲観的になってしまったからなのか、泣きそうになりながら、必死に、耐えた。

それから、分娩室に入って、一体、何時間、経ったのだろうか…。

頑張って、息んでも、赤ちゃんが出てこないでいた。

「頑張って!!」

何度も励まされたけど、もう、体力の限界だった。
意識も朦朧としてくる。

…ごめんね。

ちゃんと、産んであげられなくて…。



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