「fate」

*39*

「親子」


あれから、ミニョの消息すら掴めないでいた。
母親とは、ほとんど、絶縁状態が続いている。
電話が鳴り響こうが、贈り物が届いてこようが、そのままにしていた。

"もう、貴女の息子は、いません。"

無言のメッセージを、母親に送っていた。

ヒジュは、記者会見を開いた。
婚約破棄になった理由を、聞かれたとき、ヒジュは、当たり障りのない理由を返していた。
『お互い、話し合った結果、お互い、自分たちの家が決めた結婚であり、まだ、結婚することより、まだ、やりたいことも、あったことに気付いた。私は、モデルの仕事を、もっと、キャリアを上げて、専念したくなった』
と、涙もなく、スッキリとした顔で、淡々と、話していた。

ヒジュを、一番、傷つけてしまったのは、オレなのに…。
それなのに、ヒジュは、オレを悪者にすることなく、してくれたことに、深く、心から謝罪すると共に、感謝をした。

ミニョを見つけられないまま、時間だけが、無情に過ぎていく。
そして、ミニョがいない分だけ、心に、大きく穴が、ポッカリと開いてしまった。
今、オレの心にあるのは、喪失感と孤独だけだった。

自分だけ、取り残されたまま、季節は、巡り、色を変えていく。
街が、クリスマスのきらびやかなイルミネーションを飾るとき
世間が、新たな年を祝福しているとき
ピンク色の花が咲き誇り、その花びらが舞い散るとき
オレの目に映るモノは、すべて、色を無くしていた。

眠れない日々は続き、睡眠薬の他に、精神安定剤まで、服用するようになっていた。
それでも、自分の仕事には、責任を持っていた。
会社を潰すわけにもいかなく、仕事に、没頭していた。

久しぶりに、父親が、会社に顔を出した。

「元気か…?テギョン」

父親と会うのは、久しぶりだった。
幼い頃から、父親は、ほとんど外を飛び回っていて、家にいることは、ほとんど、なかった。
たまに、家に帰ってくると、買い集めたレコードを、オレに与えてくれた。すべて、プレミアムが付くような、珍しいモノばかりで、そのレコードを、一緒に聴きながら、父親の話を聞くのが、スキだった。
母親と違い、ひとりの人間として、オレを扱ってくれた。

一緒に、夕食をとることになった。
高級レストランではなく、個室のあるこじんまりした料理屋。
母親と違い、派手な場所を嫌う。
父親と他愛ない話をしながら、杯を酌み交わす。
父親は、きっと、事故のことも、母親のことも、ヒジュのことも、すべて知っているはずなのに、何も、聞かないでいてくれた。
でも、話さなければ、いけないような気がした。

「すみませんでした」

父親に、深く頭を下げる。
父親は、小さな息を吐くと、ゆっくりと話しはじめた。

「テギョン、お前には、辛く、不自由な思いばかりさせている…悪いと思っている。
だが、仕方がないことだと、思ってほしいんだ。ファン家に生まれるということは、こう言うことなんだ。私も、よく、わかる。お前と同じだったからな。
でも、お前の母親…ファランは、少々、行きすぎたかもしれないな。お前の気持ちも尊重せず、こうと決めたら、自分の我を通す。それが、お前を傷つけることになってしまった。
ファランは、今、深く反省しているよ。もう、お前のことに関しては、一切、干渉などせず、お前が思った通りに、自由に生きてほしいと…。出来れば、お前に許しを請いたいと…。
時間を掛けてもいい。ゆっくりでいいんだ。いつか、会いに行ってほしい。お前たちは、紛れもなく、血の繋がった親子なんだからな。」

父親は、オレの手を握りながら、目を細めながら、笑った。

暖かくて、優しい手だった。



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