「fate」

*33*

「弦月」


「…テギョ…ン…さ…ん」

誰だ…?
オレの名前を呼んだのは……?

誰かに呼ばれた気がして、目を覚ました。
横には、誰もいない。
不眠症のオレは、他人と一緒に寝ることなんか、出来ない。

…突然、ギュッと、しがみつくように、背中に腕を回され、胸に、顔を押し付けるように、埋められる。

他人に、身体を触れられることがキライだが、何故だか、ちっとも、イヤだとは感じなかった。
寧ろ、心地よく感じるほどだ。

……あぁ
オレを呼んだのは、お前だったのか……

小さな身体を、包み込むように、抱き締める。

…あたたかい

その、ぬくもりを感じるだけで、心が、和らいでいく。
しばらく、その、ぬくもりに、身を委ねていると、眠気を感じ、温かなぬくもりを離さないよう、抱き締めたまま、ゆっくりと、瞼を閉じた。

……………

ふと、気付くと、抱き締めた身体が、消えかけていた。温かなぬくもりも、消えていく……。

「……ダメだ!!……どこにも、逝くな!!……お願いだから……そばに、いてくれ……」


……自分の叫び声で、現実に押し戻された。

夢を…見ていたのだ。

不眠症で眠りが浅いため、夢を見ることは、ほとんどなかったのに……。

涙が、一筋、頬を流れ落ちた。
手のひらで、乱暴に、流れ落ちた涙を拭った。

……泣いたことなど、なかったのに……。

たった、ひとつだけ、取り戻した、小さな記憶の欠片が、様々な記憶を呼び覚まそうとしている。

…夢のハズなのに、夢じゃないようにさえも思えた。
抱き締めた身体の感触が…その、ぬくもりが…リアルに感じた。

きっと、オレは、その小さな身体を抱き締めて、眠ったことがあるのだろう…。

早く、すべての記憶の欠片を、取り戻したいのに…

早く、忘れてしまった、その顔を思い出したいのに…

それなのに、思い出せないでいる、焦りや苛立ち。

その、逸る気持ちが、新たな記憶の欠片として、眠る夢となって、オレの前に、現れた…。

でも、まだ、満ち足りていない。

まるで、欠けてしまった月のように……。



★★☆★