「fate」

*30*

「虚偽」


婚約式当日。

ホテルのレストランを貸し切りで行われた。
いつもの黒のスーツ姿の自分と、ヒジュは、まるで、ウェディングドレスを思わせるような、肩を露出した、ベアトップの真っ白なミニドレスを着ていた。

ふたり並んで、指輪の交換をする。
ヒジュの薬指に、ピッタリと嵌まる、ダイヤモンドの指輪。
オレの薬指にも、シンプルなプラチナリングが、嵌められる。

終始、幸せそうな笑みを浮かべるヒジュ。

オレは……
気分が、晴れなかった。

本当に、オレは、ヒジュを愛しているんだろうか…?

「今夜は、ふたりで、ホテルに泊まりなさい。上階のスウィートルーム、予約してあるから…」

母親が、ルームキーを、オレに手渡す。

オレたちを残して、母親たちは、帰っていく。

「どうする…?別に、帰ってもいいぞ」

ヒジュは、首を振った。

エレベーターで、上階に上がり、部屋に行く。

ふたりでは、十分に広すぎる部屋。
オレは、ジャケットを脱ぎ、近くの椅子に放ると、窓から見える夜景を、ただ、黙って、見つめていた。

「あの、メイク落としたいんで、シャワー、先に借りますね」

ヒジュが、そう言って、バスルームに入り、出てきたことすら、気付かなかった。

「テギョンさん」

肩を叩かれ、振り向くと、バスローブ姿のヒジュ。
メイクを落としたせいで、少し、幼く見える顔。濡れた長い髪が、艶めいていた。
ヒジュが、バスローブの腰紐に、手を掛ける。

ハラリと、身体を滑るように、バスローブが床に落ちた……。

均整のとれた、キレイな身体だった。
白い素肌は、眩しいほどに輝いている。
健全な男なら、色欲が湧く、"抱きたい"と思うカラダだろう…。

……でも

……オレは

"抱きたい"とも思えなかった。

これから、伴侶となるだろう女の裸体を目の前にしても、何も、思えなかった。

「…着ろ」

床に落ちた、バスローブを拾い、後ろから、ヒジュの肩に掛けた。
クルッと、オレの方に振り返ると、ヒジュが、オレのシャツを掴みながら、すがってくる。

「……テギョンさん、愛してます。……お願いです。私を…抱いてください…」

ヒック、ヒック……

子どものように、すすり泣くヒジュ。
ヒジュの肩に手を置く。

「…悪い」

…それしか、言えなかった。

カラダが…ココロが…きっと、記憶を失ったときに、眠ってしまったココロが、オレに、必死に、警笛を、鳴らしていた。



★★★★

目を塞ぎたくなるようなシーンですけど、テギョンさんにとっては、何かを気付かせる"きっかけ"として……。