「fate」

*25*

「忘却」


あの日から、一体、何日が経ったのだろうか…。もう、何週間も、ミニョに会っていない気がする。
…もう、限界だった。
身体が、心が、ミニョを欲しがっていた。
おかげで、眠れない夜が、続く。
最近は、薬の効き目さえもなくなり、薬の量を増やしたが、眠れない日もあった。

その日は、朝から打ち合わせで、結局、一睡も出来ないまま、朝早くに、自宅を出た。
今日、仕事が終われば、ミニョに会いに行ける予定だった。
少し前に、仕事の間に、偶然、見つけた、ジュエリーショップに立ち寄り、サイズがわからないから、自分の小指に合わせ、小さなダイヤの飾りの入った指輪を購入した。

ミニョに、渡すために…。

"お前は、オレのモノ"

証が、欲しかったのだ。

すぐに消えてしまう、身体の証ではなく、目に見える証が……。

朝、車を運転し、会社に向かう。
運転しているうちに、視界がボヤけてくる。

"今になって、薬が効いてきたのか…"

そう思ったときには、目の前が、暗転していた。

……そこから、記憶が、ない。

次に、気付いたとき、オレは、真っ白な壁に囲まれた病室のベッドだった。

ピッ…ピッ…ピッ…

規則正しい機械音が聞こえる。

身体を少し動かすだけで、身体が悲鳴をあげる。頭が割れるように痛い。

目だけ動かすと、横には、心電図。腕には、点滴の管が繋がっていた。

「…良かった、気が付いたのね。あなた、2週間ほど、昏睡状態に陥っていたのよ。」

母親がベッド横の椅子に座り、オレの手を握っていた。

…何が、起きたんだ?

……ここまでの記憶が、思い出せない。

唯一、オレが、この世で、愛していた女のことさえも……そのときは、思い出すことが、出来なかった……。

「……思い出そうとすると、頭が痛くなる。」

そう言ったとき、母親の唇が、何かを企むように、笑ったのを、オレは、気付かなかった。

「大丈夫。何も、心配、いらないわ」

母親が、優しい笑みを浮かべる。
それは、聖母マリアなんかじゃない。悪魔の微笑みだった。



★☆★☆

もう一個の仕掛け、発動です。
((((;゜Д゜)))

賽は、投げられました。

でも、まだ、これからなんです。