「fate」

*9*

「I miss you」


そっと、唇が触れるだけの口づけは、すぐに、唇が離れていく。

「悪いな、もう、時間がないんだ。仕事に行かないといけない」

ギュッと閉じていた目を開けると、テギョンさんが、腕時計を気にしていた。

「部屋代は、払っておく。まだ、チェックアウトまで時間はあるから、お前は、ゆっくり出ろ。また、すぐに、会えるからな。」

テギョンさんはそう言って、私の頭をポンポンと優しく撫でる。
そして、ハンガーに掛けてあった、スーツのジャケットを羽織ると、後ろ手で、手を振りながら、テギョンさんは、部屋を出て行ってしまった。

ひとり、ベッドに、取り残されてしまった、自分。
さっき、キスをされた、あの、胸がキュッと締め付けるような熱さが、急に、冷えきってしまった。
今にも、泣き出しそうな気分にさえ、なってしまう。
このまま、部屋にいるわけにもいかなく、シャワーも浴びず、ドレスを、また、身につけると、部屋を後にした。
そのまま、エレベーターで、下に降り、営業が終わっているバーに立ち寄り、従業員が利用する更衣室で、着替えを済ませ、私は、ホテルを後にした。

タクシーに乗るお金もないから、歩いて、母と一緒に住んでいた小さなアパートに帰った。
まだ、頭の痛さは、治ってもなく、食欲もなかった。シャワーを浴びて、そのまま、小さなベッドに、丸まるようにして、眠った。

テギョンさん、アナタに会って、近付いて、触れ合って、でも、すぐに、サヨナラをして……サヨナラしたハズなのに……それでも、またすぐに、テギョンさんの顔を見たくなってしまうんです…。

どうして、アナタを想うだけで、胸が、ギュッと、鷲掴みされるように、痛くなるんですか…?

アナタに会えば、この痛みは、消えますか?

テギョンさん

会いたい

会いたい

会いたい

もっと、アナタの、傍に近寄りたい。

触れ合って、アナタを、もっと、感じたい。


夕方、目を覚ますと、出かける仕度をする。

そして、夜になると、また、あのバーのステージに立つ。

アナタに会えるよう、星に願いながら…。

私は、アナタだけを想って、歌う。



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