「fate」

*2*

「Hello」


今夜は、雨が降っているため、お客さんの数は、まばらだった。
それでも、私は、いつものように、ステージに立つと、ひとりのお客さんが、ずぶ濡れのまま、バーに入ってきた。
なぜか、そのヒトから、目が離せなくて、そのヒトが、カウンター席に座るのを見届けてから、私は、ゆっくりと深呼吸をすると、歌いはじめた。

"I've been alone with you inside my mind
And in my dreams I've kissed your lips a thousand times
I sometimes see you pass outside my door
Hello, is it me you're looking for?

歌っている途中も、なぜだか、そのヒトから、目を離すことが出来なかった。
そのヒトは、マスターから、丸いボールの氷と琥珀色した液体が入ったグラスを受けとると、長い指を、グラスに入れると、クルクルと氷を回している。
黒髪が、雨に濡れて、艶めいて、男のヒトなのに、なぜか、色気を感じてしまう。
金縛りにあったように、ずっと、そのヒトを見ていたら、ふいに、視線が合い、私は、慌てて、視線を逸らした。
長い前髪から見える、その瞳は、強く射るように真っ直ぐ見ていたけど、何処と無く、悲しげに帯びていたような気がした。

I can see it in your eyes
I can see it in your smile
You're all I've ever wanted, (and) my arms are open wide
'Cause you know just what to say
And you know just what to do
And I want to tell you so much, I love you ...


私の気持ちと歌っている歌詞がリンクするような感じがして、知らぬうちに、頬が、熱く、火照っていた。

歌い終わり、頭を下げ、赤くなった頬を隠すように、俯いたまま、ステージを降りると、強く、腕を掴まれた。
ハッとして、顔を上げると、目の前には、そのヒトが、立っていた。



☆★★☆

今宵の一曲

「Hello」ライオネル・リッチーです。
ちなみに、日本語訳は、コチラ。↓↓

心の中では君と二人きりだった
僕は夢の中で、君に千回もキスをした
時々僕は、君が僕のドアの外を通るところを見る
ハロー、君が探しているのは僕なの?
君の目の中にそれが見える
君の微笑みの中にそれが見える
君は僕が今まで求めてきたもののすべて。僕の両腕は大きく開いているよ
だって、何を言うべきか君には分かるよね
何をするべきか分かるよね
僕は君にこれだけは言いたい。愛してるよ……


出来れば、そのヒトに、弾き語りで歌ってほしかった一曲です(*ノ▽ノ)