「fate」

*プロローグ*

「遺言」


いつも、私は、ひとり。
ちっぽけなバーのステージに立って、歌っている。

私の母も、昔、このバーで、歌っていた。

母は、このバーで、私の父親に出逢い、母は、恋に落ちた。
ふたりは、強く惹かれ合い、愛し合い、そして、母は、私を身籠った。
だけど、母は、父親に、妊娠したことを黙ったまま、ひとりで、私を産むために、このバーから、忽然と姿を消したのだ。そして、私が生まれ、母は、女手ひとつで、私を育ててくれた。
でも、もう、この世に、母は、いない。
3年前に、病気で亡くなったのだ。
母が、病床に伏せているとき、私は、母に聞いた。


「ねぇ、お母さんは、幸せだったの?」

母は、ニッコリ微笑みながら、か細い声で言った。

「もちろん、幸せよ。あなたのお父さんにも会えたし、あなたにも出会えたわ。」

私は、一度も、父親の顔を見ることなく、育った。母は、父親のことを話すことは、時折、あったけど、名前を出すことは、一度も、なかった。ただ、とても有名な人らしく、お星さまのように、眩しい光のように輝いていたと、まるで、恋をした少女のように、頬を赤く染めながら、話していた。

最期、母は、病気で細くなってしまった手で、私の手を握った。

「お願い、テファ、約束して。もし、誰かに、あなたのお父さんについて教えてもらっても、いつか、あなたが、お父さんに会うことが出来たとしても、親子だと、名乗ってはいけないわ。それは、残酷なことかもしれない。でも、私たち、母子(おやこ)のことで、あのヒトを苦しめたくないの。あなたには、本当に、不自由な、思いばかりさせて、悪いと思ってる。本当に、ごめんね、何も、残してあげられなくて…。でも、これだけは、わかって…。あなたを愛してるわ。あなたのそばには、いられないけど、これからも、あなたが、幸せと共に生きられるように、ずーっと、見守っているから、ね」

私は、母が亡くなったあと、母が働いていたバーを探すことにした。

「あぁ、コ・ミニョさん。覚えているよ。いつも、このバーで歌っていたんだ。透明で、清らかな声の持ち主だったよ」

"コ・ミニョ"

…母の名前だ。

やっと、何軒か回って見つけた場所に、母の働いていたバーを見つけることが、出来たのだ。

そこは、ホテルのラウンジにある、ちっぽけなバーだった。



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「happiness」のソラと区別するために、娘の名前を、変えてあります。

"テファ"
韓国語で、この名前が存在するか、どうかは、定かではありませんが、ミニョが、娘に付けた名前です。

これから、時代が遡り、ミニョのハナシになります。