「Honey moon」

*18*

「余韻」


少し空いた窓から、海風が流れ込んで、ゆらゆらと揺らめくカーテンのすき間から、眩しい朝の光が射し込んでいる。

テギョンの腕の中で、眠っていたミニョの身体が身動ぐ。

「……ん」

まだ眠そうな目をパチパチと瞬かせるミニョ。

目の前には、愛しいヒトの寝顔。
自然と、顔がほころんでしまう。
ミニョは、起こさないように、そっと、指で、愛しい、その寝顔に触れる。


「…うふふ。寝ている顔は、いつ、見ても、かわいく見えますね。」

いつものキツく引かれたアイラインはない目元は、少し、幼さを感じる。

キリッとした眉、閉じている瞼、スーッと伸びた鼻筋、柔らかい唇に、指を滑らす。

「…ミニョ、くすぐったい」

今まで目を閉じていたテギョンが、パッと目を開け、ミニョを見つめていた。

ニヤリと笑うと、唇にあった、ミニョの指をパクッと口に含んだ。

「きゃっ!!」

驚いたミニョは、慌てて、テギョンの口から指を離すと、恥ずかしそうに、頬を紅く染める。

「おはよう…ミニョ」

テギョンは、まだ、昨夜の余韻が残っているかのような、甘さを含んだ朝の挨拶とチュッと音を立てるように軽くキスをすると、ミニョを、ギュッと、身体が密着するように、引き寄せた。
まだ、何も身につけていない、お互いの素肌が触れ合う。

テギョンの長い指は、ツーーッと、すべすべしたミニョの背中を滑らす。

「…ん…いや…ぁ……」

ミニョは、思わず出してしまった自分の声が、恥ずかしくなり、身を捩った。

「あ、あの…シャワー、浴びてきます…」

ミニョは、テギョンの腕の中から抜けると、布団に潜ったまま、下に落ちたバスローブを拾うと、すぐに羽織り、バスルームに逃げるように、入っていく。

朝の"あまい"ひとときが呆気なく終わってしまい、不服そうに口を尖らすテギョン。

「キャー!!!」

バスルームから、部屋中に響くミニョの叫び声。

「はぁ…朝から、忙しないヤツだな…」

面倒くさそうに言っているテギョンの顔は、なぜか楽しそうで、テギョンもバスローブを羽織ると、ミニョがいる、バスルームへと入っていった。
ミニョは、自分の身体を抱くように、踞っていた。

「どうした、ミニョ?」

バスルームのドアに、凭れ掛かりながら、腕を組み、テギョンが、ミニョを見ている。
口をすぼませながら、テギョンを恨めしそうに見上げるミニョ。

ミニョの身体中には、隠しきれないほどに、たくさんの"紅いしるし"が刻まれていた。

「うぅ……ヒドイ…もう…こんなに…いっぱい…つけすぎ……」

グスグスと泣きべそをかいているミニョ。

「し、仕方ないだろ…それだけ、お前のことを愛してるんだから…もっと、喜べよ!!」

バツが悪そうに、でも、「当たり前だろ」と言うような顔をしているテギョン。

「…もう、いいです。シャワー、浴びるんで…もう…出てってください…」

いじけたように、プクッと頬を膨らますミニョ。

その顔すら、可愛くて見えて仕方ないテギョン。

「一緒に入ろうかな?」

テギョンが、ニヤニヤと意地悪そうに笑いながら、バスローブを脱ごうとする。

顔を真っ赤にして、ブンブン首を振るミニョ。

テギョンは、嫌がっているミニョにお構いなく、バサッと、バスローブを脱ぎ捨てると、バスルームに入っていった。

「…もう…恥ずかしい…いやぁ…」

「…ほら、ダメだって!!逃げるなよ!!」

バシャバシャとバスタブの水の音と、ふたりの甘さを含んだ声が、バスルームに響く。

結局、お風呂で、逆上(のぼ)せて、クタクタになったミニョを抱きあげ、ソファーに寝かすと、テギョンは、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、一口、口に含むと、口移しでミニョに飲ませた。

火照ったように、真っ赤に染まるミニョの頬を心配そうに撫でるテギョン。

「…もう…意地悪…」

「…ゴメン」

ミニョの潤んだ瞳で見つめられたら、返す言葉もなく、素直に謝るしかないテギョンだった。



☆★☆★

昨夜の余韻に浸ってるので、どことなく甘めに仕上げてみました。