「Honey moon」

*14*

「aquarium」


ミニョは、しばらく、足が鋤くんだまま、その場から、動くことが出来なかった。
ミニョが、胸元に手を当て、キュッと掴んで、俯いている。

あのときのことを思い出すと、まだ、少し胸が痛んだ。

テギョンも、しばらく、ミニョの様子を見ていたが、ミニョの手を、しっかり握ると、意を決したように、ゆっくりとした歩調で、歩き出した。

水族館の中に入ると、そこは、青い海の世界。
そして、沖縄の深海を再現した、ジンベイザメが泳ぐ、あの、巨大な水槽が見えた。

あのときとは違って、今日は、たくさんの人たちが訪れ、賑わっていた。
みんな、笑顔で、水槽で泳ぐ魚たちを眺めているのに、ミニョの顔は、固いままだった。

きっと、あのときのことを思い出しているんだろう…。
オレは、ミニョに、母親"イ・スジン"の写真を渡した。生まれて初めて見る母親の写真を見ながら、泣いているミニョの姿が、今でも、思い浮かぶ。

あのときは、自分のことしか考えられなかった。
ミニョが、自分以上に苦しんでいたことなんて、考えてもやれなくて…
話も聞かず、怒りをぶつけて、傷つけて…
悪いのは、コイツじゃないのに…母親が愛した男の子どもであるコイツが、憎いとさえも思ってしまった…。
あのとき、泣いているミニョを、抱き寄せて、慰めてやることも出来なかった。

「…ミニョ」

今、すぐそばにいるミニョの肩を、そっと、抱き寄せると、ミニョの髪に顔を埋めた。

「…ゴメン…悪かった」

ミニョだけに聞こえるように、あのとき、すぐに言えなかったコトバを、小さく、囁いた。

ミニョが、鼻を啜りながら、頭を横に振った。
ミニョのすすり泣く声が聞こえる。
テギョンが、ミニョの頭を、優しく撫でながら、目の前に広がる青い海の世界を眺めていた。

「…キレイですね」

ミニョが、まだ、涙の残っている顔を上げた。

「…あぁ」

ふたりで、しばらく、青い海の世界を見つめていた。

ずっと、心のどこかに残っていた、抜けない棘が、やっと、消えたような気がした。



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