「ゴースト・エンジェル」

*3*

「ウサギの"トッキ"」


「お前、一体、誰なんだ…?」

朝、起きても、まだ、アイツの姿が見えた。

「………」

口をパクパクしながら、何かを喋ろうとしている。

何度も、何度も、声を出そうと、試しているのか、口をパクパクしていた。

でも、オレの耳からは、何も、聞こえてこない。

そのうち、喋ることを諦めたのか、肩を落とし、口をすぼめ、俯いていた。

グス…グス…

鼻を啜る音。

どうやら、泣いているようだ。

"はぁ…"

自分からは、大きなため息しか出てこない。

ドアのノック音が聞こえて、看護婦が入ってくる。

「ファン・テギョンさん、おはようございます。気分は、いかがですか?」

体温計を渡され、看護婦は、カーテンを開けた。

「いい天気ですね」

看護婦は、すぐ、そばにいるアイツに、気付きもしない。

「今日は、退院の日ですよね。おめでとうございます。」

…そう言えば、そうだった。
ピピピ…と、体温計の音が鳴る。

「熱もありませんね。後で、診察がありますからね。」

看護婦は、病室から出ていった。

はぁ…

また、ため息をついてしまう。

「おい、お前!!」

まだ、グスグス泣いている。
泣きたいのは、こっちの方だ!!
なんで、こんな厄介なモノに、憑かれなきゃいけないんだ!!

「おい、泣き虫!!うるさい!!!泣くな!!!」

グス…強く鼻を啜ると、涙を手でゴシゴシ擦った。

擦ったせいで、真っ赤になる大きな目。

鼻を啜ったせいで、真っ赤になる、鼻の頭。

白い格好…

その姿が、幼い頃に、飼っていた白ウサギの"トッキ"にそっくりだった。

アイツの項垂れた頭に、垂れた長い耳が付いてそうだった。

そう、想像しただけで、何故だか、その姿が、懐かしくて、笑えた。



★☆★☆

「トッキ」は、韓国語で「ウサギ」なんですけど、名前にしてしまいました。
 ̄(=・ω・=) ̄