短編

「催涙雨」


「やっぱり、雨が降っちゃいましたね…」

ミニョが、合宿所のベランダから、悲しそうに空を見上げた。

今日は、7月7日。
七夕の日。

玄関を見ても、誰も帰ってくる気配もなく、人知れずため息をつくミニョ。

「忙しいですから、仕方ないですよね」

先ほど、A.N.JELLは、歌番組の収録を録り終えたばかりだった。
分刻みの多忙なスケジュールで、テギョンとミニョが会える時間は、ほんのわずかだった。

「今日は、七夕だから、少しだけでも、会えたらいいな…」

そんな期待を持ち、合宿所に足を運び、テギョンの帰りを待っていた。

「やっぱり、今日も、会えないんですかね…」

口をすぼめながら、ミニョが、ピアノ室の壁に飾ってあるテギョンの写真を見つめていた。

忙しそうだから…大変そうだから…"会いたい"なんてワガママは、とても言えないし、煩わせたくもない…会える時間があるのなら、ほんの少しだけでも、身体を休ませてほしいから…

これは、我慢じゃなくて、当たり前に思うミニョの気持ちだった。

でも、会えない日が続くと、やっぱり、淋しくて…恋しくて…

ミニョが、グスッと鼻を啜った。

"ガチャ"と、突然、ドアが開き、ミニョは、ビックリして、慌てて、涙を拭った。

「やっぱり、来てたか…」

呆れているような低い声に、ミニョは、顔を合わせられずに、俯いている。

「今日は、七夕だもんな。織姫が、彦星に会いにいく日…」

ミニョが、顔を上げる。
泣いていたのが、一瞬でわかるような、潤んでいる瞳。
テギョンが、そっと、ミニョの顔に、指を伸ばした。
ギュッと瞑ったミニョの瞳から、残っていた涙が流れ落ち、テギョンが、優しく親指で拭った。

「仕方ない。今日は、特別だ。緊急ファンミーティング行う」

テギョンが、ふと微笑むと、ピアノの前の椅子に座ると、"トントン"、自分の隣を叩く。

嬉しそうに、ニッコリ笑ったミニョ。

それは、ステキな夜のはじまりを告げていた。



★★☆☆

滑り込みで、七夕のハナシ書きましたぁ…。

「催涙雨」
…織姫と彦星が流す涙。

ちなみに、日本では、七夕に雨が降ると、「ふたりが会えなくて泣いている」と解釈しますが、韓国では、逆で、「会えて嬉しくて、泣いている」と解釈するそうです。