短編

「心の鍵」


いつも、いつも、独り。

夜、寝るときも、病気で寝込んでいるときも…。

誰も、そばにいてくれなかった。

父親は、仕事柄、家を空けることが多く、父親の代わりに、家には、家政婦がいた。

離婚した母親は、オレに会いにくることなんか、なかった。

そばにいてほしいときに、誰もいない。
寂しいも、辛いも、苦しいも、心から、甘えられる大人なんか、誰もいない。

いつしか、求めることをやめ、ココロに鍵をかけた。その鍵は、自分のココロの奥深くに仕舞い込んだ。

高校を卒業後、家を出た。音楽の道を目指すために…。
信頼出来る、社長に出会い、仲間に出会った。
自分の好きな音楽を創る。楽しかった。
夢中で、歌い続けていくうち、喉を壊していた。

社長がある日、オレに言った。

「仲間を増やす」と。

反対するオレに、社長はあるヤツを連れてきた。

「コ・ミナム」

オレが睨むと、アイツはビクビクと怯えていた。

「オレの耳で聞いてみないと、お前を受け入れるか、どうか決められない。だから、歌え」

コ・ミナムが歌いはじめる。

男の声らしからぬ、綺麗な高音。その場にいる全員が、その声に、聞き惚れていた。

ヤツが加入してきた途端、ヤツは、やたらめったらと、事故を巻き起こしてくる。

ヤツがオンナだとわかった。双子の兄の代わりだと、すぐに辞めさせようした。

ある日、アイツらの行方不明の母親らしき人物が事務所に来たという。

母親を探し、見つけ出すため、ココにいさせてほしいと、アイツはオレに大事な指輪を差し出して、頼んできた。

オレは、公園の池の中に、指輪を投げ入れるフリをした。

アイツは、オレに怒って、ひとり、池の中に、入ってく。

オレは、そのうち諦めるだろう、と思っていた。

翌朝、公園の池に行くと、やっぱり、アイツの姿は、なかった。

"フン、所詮、そんなもんだ"

と思った矢先、岩の陰から、ヒトの姿が見えた。

アイツだった。

徹夜で、ずっと指輪を探してたらしく、足元が覚束ず、池の中に、倒れこむ。また、立ち上がり、懸命に指輪を探す。

"アイツは、バカか"

指輪は、オレの手元にあるんだぞ

アイツの元に行き、声を掛ける。

アイツはオレを無視し、まだ、探し続ける

"きっと、願えば、見つかる。"

そう呟きながら。

オレは、アイツに、指輪を見せる。ココにあると。

アイツが池から出てくると、オレの手から指輪を奪い返す。

そして、オレに抱きついてきた。

オレの"心の中"にあった、と



今、思えば…。

オレの心の中に、土足で踏み入れたお前。

もう、どこに仕舞ったのか、忘れてしまった「鍵」を、お前は、その「鍵」なしで、無理やり、こじ開けるように、オレの心の中に、入ってきた。

お前がその鍵を開けてしまったせいで、忘れていた感情が蘇ってしまった。
でも、今なら、その感情がいいと思える。

お前のおかげで、ヒトを愛することが出来たから…。

今日も、お前の耳元で囁く。ありったけの想いをこめて…。



☆…★…☆…★

また、"誰かさん"のココロに入ってみました。

ふたりの分岐点のひとつですね。



ハナシを書いてると、気が紛れていいですね。
真夜中に、妄想しまくり(´m`)