先日、東京駅に降りたときのこと。

 

ミチテラスというイルミネーションを見にいく人たちの波に流されるように、北口の改札を出た。

人の波から外れて立ち止まると、靴磨きの人がいた。

靴は自分で磨くものであり、靴磨きなんて贅沢だと考えていた自分だが、ふとお願いしてみようという気になった。

こんな一等地で一人だけ靴磨きを営業しているなんて、何かすごいなと思ったからだ。

 

靴磨き屋さんは饒舌な方で、靴を磨いている間、いろいろ話をしてくださった。

その途中、突然、絵画のチラシを手渡された。

「その展覧会に私も出展しているんですよ」

名刺もいただいた。

パブロ賢次さん。

 

「靴磨きは家業。画家も職業」

 

いわゆる二足の草鞋である。

若いころはバンドマンをやっていたこともあり、そのアルバイト料はサラリーマンの給料を軽く超えていたという。

家業の靴磨きでも、当然のことながら、お金を取って行っていたわけであり、絵画にしても、一号数万円という高値が付く。どの職業にしても最初からプロであって、アマチュアの経験がない。

 

「アマチュアからプロには、決してなれない」

 

パブロ氏のこの一言は強く印象に残った。

そのときは、

「そんなことはない」

と思い、反論もしたのだが、よくよく考えてみると、思い当たるところがあった。

 

私は小説大賞出の作家で、もちろんそれまではアマチュアとして書いていた。

アマチュアで書いていたときに辛かったのは、小説を書いていると告げると、

「いいご趣味をお持ちですねえ」

と言われることであった。

自分では仕事だと思っており、趣味だとは思っていない。

でも回りからは趣味だと思われている。

趣味ではお金を取れない。

 

絵画でも同じだ。誰でも絵を描くことはできるし、お金を払えば個展も開ける。

インターネットにアップして、自分は画家だと名乗ることもできる。

けれども、100円、いや10円でもいい。有料だと言うと、それまで見てくれていた人にもそっぽを向かれてしまう。

アマチュアには無料でも見てもらいたいという感覚があり、プロは有料でないと見せないという気概がある。

パブロ氏は何事においても最初からプロ意識があったのだろう。

世の中は多様化しているが、パブロ氏の一言が真理を突いているのも事実だ。

 

アマチュアとプロの間に横たわる川の幅はさほど広くはない。

アマチュアは川の幅しか見ないで、楽に飛び越えられると思うが、プロはその川が驚くほど深いことをよく知っている。

 

  

 (パブロ賢治さんの絵、HPはこちら

 

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