翌日。ワタシはまた友だちに来てもらい、二人で仕事をしていた。
オットは今日もイライラしている。何かしないと居られないようで、包丁研ぎを始めた。家にある包丁、全部。
研いでくれるのはありがたいが、なんだか危険な雰囲気。刃物を持っている目つきが怪しい。気のせいだろうけど。
ハハはびびって、オットが台所にいる間、こっちへは出てこなかった。

ところが、いつもより仕上がりに不満があるらしく、「うまく研げない」と落ち込んでいる。
「そんなことないよ。きれいに研げているから、よく切れるようになったよ」
そう言ったが、自分で納得できないらしく、イスに座ってがっくりしている。

友人は「上手に研ぐんやね。うちの包丁も研いでほしいな」と助け船を出してくれた。


さらに翌日。この日も友人が手伝いに来てくれた。包丁持参である。
オットは一所懸命、友人の包丁を研いでいた。
途中で友人がコーヒーを入れに台所へ降りていくと、オットは包丁を手に
キ○ガイに刃物や
と、自虐的な冗談を言っていたそう。シャレにならんゾ。
しかし、もともと切れないステンレスの包丁だったので、やはり切れ味に不満が残ったようで「うまく研げない」と、また落ち込んでいた。
友人は喜んで持って帰ってくれたけれど。

この日はそれから、毎月買い込みに行くディスカウントショップまで、お酒も買いに行ってくれた。ちょうどビールが切れていたので。しかも夜は、ワタシが夕食を作る前に、オットは白菜を刻んでサラダにしていてくれた
それにあり合わせでおかずを作り、一緒に食べる。
「白菜、きれいに切れてるよ。おいしいね」
そう言っても、まだ元気がない。

「今日せっかく包丁を研いだのに、友だちは切れ味を確かめないで持って帰った」
と言う。
「そりゃそうだよ。いきなり『では切れ味を試したいから大根でも出してくれ』って、いくら友だちの家でも言わないでしょ」
そう慰めたけれど、目の前で「切れるようになった」と喜んでほしかったらしい。だからワタシは、メールで「今度来たときは『よく切れるようになった!』と言ってやってね」と、友人にお願いしておいた。


さらに翌日は、お医者さんへ。
またもや4時間待ちでくたびれて帰ってきた。しかし、このごろよく眠れないということで睡眠薬をもらってきたらしく、それを飲んで寝る。
ワタシは横で寝ていて、けっこういびきをかいているので眠れてるのかと思っていたが、眠りが浅く何度も目が覚めるらしい。だから、それが解消すれば、少しは気分が良くなるかなと思った。

この翌日は、散歩の帰りに大量の豚骨を買ってきてスープを取っていた。ラーメンを作るつもりらしい。
大きな寸胴鍋に骨をぶち込み、丁寧に丁寧にアクを取っている。その執着ぶりはちょっと怖かったけれど、することがないからとイライラしてる時間よりはマシ

連日の作業で疲れたのか、この日も早々に寝ていた。


翌日の昼。昨日取ったスープでラーメンを作る。
近所のスーパーまで麺を買いに行ったが、ラーメン用の半生麺は売っていなかった。しょうがないので、中国産の極細玉子麺を買って帰る。
が、しかし。
これがまずいっしまった

ハハも一緒に食べたのだが、「おいしいわね」とお世辞を言っても「まずい」とブスッとしている。居心地が悪かったのだろう、ハハは早々に自分の部屋へ入っていった。
オットは、せっかく自分が丁寧に取ったスープが、麺のせいで旨くなかったというので、また機嫌が悪くなる。
ごめんよー。いつもワタシは、ここぞと言うときに失敗するのだ


そんなわけで、この日の夕食時には、いつもいつもお前が不快な気分にさせる。オレがイライラしているときに、楽しそうに仕事をしやがって。と、しつこくからまれた。
実は、ワタシは5年ほど前に筋腫の手術をしてから、夜のお勤めが辛い。ということでご遠慮申し上げていて、ずいぶん長い間レスである。
そんなことも持ち出し、「オレがしたいときにさせてくれないで、お前はいつも自分の都合ばっかり主張してオレをないがしろにする」と文句を言い続ける。大きな声で性的なことを言うのは、ハハに聞こえないか冷や冷やだったが、ワタシのそういう態度も気にくわなかったのだろう
1時間ほど怒りまくったあげく、反動でしんどくなったようで、また薬を飲んでよろよろと寝室へ上がっていった。